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【日刊マンガガイド】『プロメテア』第1巻 アラン・ムーア(作)J・H・ウィリアムズIII(画)柳下毅一郎(訳)

2014/07/15


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『プロメテア』第1巻
アラン・ムーア(作)J・H・ウィリアムズIII(画)柳下毅一郎(訳) 小学館集英社プロダクション \3,200+税
(2014年5月28日発売)


日本の読者には、映画化もされた『ウォッチメン』『フロム・ヘル』『Vフォー・ヴェンデッタ』などを手がけたことで有名であろう、米国コミック界の鬼才アラン・ムーア原作。
2001年には「マンガ版アカデミー賞」とも呼ばれる、アイズナー賞を受賞している。

数世紀前の抒情詩から、都市伝説、パルプ・マガジン(低品質の娯楽雑誌)に掲載された小説、そしてアメリカン・コミックまで……歴史上のあらゆる「物語」に、その姿を現す女神・プロメテア。
そんな謎の女神に興味を持ち、レポートの題材にしようと調査をしていた女子大生のソフィーは、ある夜、異形の怪物に襲われる。そこでソフィーを救ったのは、なんとフィクションの存在とばかり思っていたプロメテア! ところが、ソフィーの前に出現したプロメテアは物語で語られる姿とはかけ離れた中年女性で……。
先代からプロメテアの名を襲名し、女神に変身する力を得てしまったソフィー。新人プロメテア・ソフィーと、魔の眷族たちの戦いが始まった!

と、ストーリーだけ見ると、日本のエンターテイメントのなかなら魔法少女(魔女っ子)モノに近いのだろうか……という印象。実際、作中ではプリキュアオールスターズ……じゃなかった、歴代プロメテア全員集合シーンもあるし。
しかし、本作がほかのオカルト要素を扱ったマンガ(日米を問わず)と一線を画しているのは、やはりムーアによって各所に練り込まれた、西洋魔術に関する深遠な知識の数々だろう。

カバラ、セフィロート(生命の樹)、大小アルカナといった、オカルトを題材にしたフィクションではおなじみのものから、古代から伝わる性の奥義、原始宗教、400年前に書かれた実在の魔術指南書、アレイスター・クロウリーの近代魔術まで。下手な専門書以上の圧倒的な情報量だ。
それらが、ただ「設定」や「豆知識」的に触れられるのではない。登場人物たちの台詞に紛れ込んでいたり、J・H・ウィリアムズによる美麗なイラストのなかに隠れていたり。さらには、コマ割りという「マンガの文法」や絵柄の変化といったメタ的ともいえる手法を駆使して、1冊の本のなかに落とし込まれている。
その情報ひとつひとつが、「物語の本質」や「人間の想像力」といった本作の主軸を、丁寧に説き明かすためのアイテムとなるのだ。

そもそもムーアは近年、コミック原作者としてだけではなく、魔術師としても活動中(!)であるという。本作は、彼が信奉する「蛇神グリュコーン」という古代ローマの神を召喚するため、実際に行った儀式で得たインスピレーションをもとに執筆された……というエピソードもあるくらいだ。
そう、『プロメテア』は名実ともに、マンガの形式で執筆された「魔術書」そのものなのである!

もちろん、小難しい(怪しい)ことは抜きにして、壮大なスケールのスーパーヒロイン・ファンタジーとしても、ひとりの少女の成長物語としても、また緻密で艶やかなイラストで描かれる個性豊かなキャラクターたちの大活劇としても、十分に楽しめる本作。
今までアメコミを敬遠していた方々にも、ぜひ手にとって、その楽しさに目覚めてもらいたい。そして、本作の魅力……いや魔力にとりつかれ、ゆくゆくは西洋魔術の神秘と真理の楽しさにも――。



<文・四海鏡>
石ノ森章太郎ファンのライター。好きな石ノ森作品は『番長惑星』など。ネオライダー世代。

単行本情報

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