コミック版『珈琲店タレーランの事件簿』を描くため、原作小説を誰よりも読みこんだという峠比呂先生。そんな峠先生が『珈琲店タレーランの事件簿』のもうひとつの魅力「京都」を語りつくす!
そして、原作者・岡崎琢磨先生も絶賛のコミック版オリジナルエピソード「流れ星の長い旅」に込められた想いとは?
『タレーラン』を読んだら、京都に行かなきゃ損!
——『タレーラン』のコミカライズ、全編とおして非常に難しかったとおっしゃいましたが、特にこの章は苦心したというのは。
峠 全部だからなあ……。最初から最後まで。
——とくに第三章「盤上チェイス」がたいへんじゃなかったですか。
峠 「盤上チェイス」は、土地勘ないとわかりづらい部分が多かったですね。そのなかで、いちいち地名を出すか出さないか、どっちの方向性で書くのか、一番最初に決めなきゃいけなくて。
——と、いうと。
峠 わかりやすさですよね。意外かもしれないですけれど、自分の知らない地名があんまりたくさん書いてあっても混乱するだけで、わかりやすさにはつながらないんですよ。地名を出さなくても、今、キャラに何が起きているかを丁寧に描いてあげたほうが、じつはわかりやすい。これはマンガならではかも。
——細かく描くことが、必ずしもわかりやすさではないんですね。
峠 「追いつかれるはずのない相手に追いつかれた」っていう問題だけを抽出して、読者に伝えるようなやり方もあったと思います。
けど今回はきちんと地名を描こうと。それは読者が「盤上チェイス」を読んで、京都の地図を見たときにキャラクターの足跡を辿れるようにです。
——実際に京都に取材に行かれたということですが、その経験が活かされたエピソードなのでは。
峠 僕が京都に取材に行ったのは、「盤上チェイス」でアオヤマたちが歩いた道をたどるためと言っても過言ではないので(笑)。自転車で全部回ったんでけど、楽しかったですね。
なので「盤上チェイス」を読んでみて、おもしろかったり、逆にちょっとよくわからないと思ったのなら、原作なりコミックなり片手に京都の街を回ってほしいです。
——原作1巻が出たタイミングのときに、「盤上チェイス」が文字を読むだけだと難しくて、間のページに地図も入れてくれれば!って声がたくさんあったらしいんです。なので岡崎先生は、コミカライズで、ああいう描き方をしてくれてよかったとおっしゃってましたね。
峠 扉の地図はもうちょっと細かいものでもよかったかもしれないですね。
『タレーラン』ってじつはすごくマニアックなんですね。みんなが行くのはお寺があったりする京都の外周部分だけど、そういった観光地じゃなく、京都の中心部をしっかり描いてる。整理されて地図上じゃ碁盤の目だから、よそ者には同じように思えるけど、実際に歩いてみるといろんな顔があるんです。
——岡崎先生も京都を舞台に作品を描こうと思ったときに、「観光地が舞台になってる小説はたくさんあったけど、そうではなく、住んでる人が『おっ!』と感じられるところを取り上げた作品を作りたいという気持ちは強かった」とおっしゃってますね。
峠 そういうところの魅力って、「るるぶ」とか「マップル」みたいな旅行誌じゃほんとにわからないんですよ。