『文房具ワルツ』
河内遙 小学館 \940+税
(2014年9月10日発売)
完結を迎えた『関根くんの恋』とほぼ同時発売となった『文房具ワルツ』は、タイトルどおり、文房具をモチーフにした、前編の登場人物が次編の主人公となっていくロンド形式の連作短編集だ。
テーマは、文房具から見た恋。文房具が恋の小道具にもポイントにもなっていく内容で、その文房具にまつわるドラマというのも読ませどころだが、本作はそこに止まらない。自意識を持つ擬人化された文房具たちが、文字どおり、それぞれの主人公の恋を見守って、応援しているのだ。
たとえば、「渋カワイイ」中年小説家で、大学で専任教員をしているイサハイ先生を想い続けている、女子大生のナズナ。彼女はせめて自分の想いは伝えたいと、便せんと向かい合うが、何も書き出せずにいる。そんな彼女を気に掛けるのは、シャープペンの“シャアくん”、消しゴムの“けしくん”、定規で男子なのに乙女な“ジョー”。彼らは主人の恋を応援したいと、ナズナに代わって便せんにある文章をつづるが……。
ファンタジックでロマンティックな文房具×純愛の短編集。しかし、そこは河内遥だけに、ドキッとさせられるような描写や、ズキッと突き刺さるようなセリフも満載だ。
擬人化された文房具ということでは、作者には『はてなの花』という作品もある。とあることで悩む主婦・ヨーコの前に、子供時代に愛読していた『菜の花畑でつかまえて』のヒロイン・野原菜の花(なのかちゃん)の着せ替え紙人形が、言葉と動きをともなって現れるという内容だ。
ヨーコの悩みというのは、夫とのセックスレス。夫はSMの“M”プレイにハマっていて、その相手である“S”の女王はレズビアン。しかも、彼女は偶然出会ったヨーコに想いを寄せてもいて……。
ファンタジー(もしくはファンシー)とSMやセックスレスというギャップがおかしくもおもしろくもせつなくもある『はてなの花』だが、『文房具ワルツ』も同様だ。ファンタジックな設定があることで現実のやるせなさが、現実のやるせなさがあることでファンタジックな設定が、それぞれ際立つ。
大人にこそ沁みる物語で、恋愛においても仕事においても、屈託も屈折も知る年代にこそ響くファンタジックな純愛ドラマ。
「共感」をマンガで見たいという人にも、「驚嘆」をマンガで読みたいという人にも、きっとフィットするはずだ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。