『関根くんの恋』第5巻
河内遥 太田出版 \1,000+税
(2014年9月10日発売)
関根圭一郎は、30歳のサラリーマン。憂いを帯びた風貌に加えて、学生時代からスポーツも勉強もでき、今もまわりの女性たちを騒がせているイケメンエリートサラリーマンだ。
それなのに関根くんは、鈍感で受け身で器用貧乏なのがたたって、ピントのずれた人生を送ってきた、まれに見る残念な男。
そんな彼が趣味を見つけようと訪れた手芸屋で、店主の孫で屈託のない娘・サラと出会ったことで、変化が訪れる……。
不器用な男子の不器用な恋を描いた作品は数多いが、そのなかでももっとも残念な男を主人公にすえる『関根くんの恋』が完結を迎えた。
その行動や言動のすべてがモテにつながっているのに、本人はまったく無自覚で、色めきたつ女性陣にも煩わしさしか覚えていない。モテているのにもったいない! という意味でも残念だが、そこに楽しみも喜びも見出せないという意味でも残念な人物なのだ。
見た目や態度とのギャップが笑いどころにも、庇護本能をくすぐる魅力にもなっているが、そこに息苦しさどころか、生き苦しさも感じさせて、読んでいて切なくもなってくる。
たんなる個性派のキャラクターコメディにも、ラブコメディにもなっていないところが、本作の魅力だ。
目立つ外見でモテててきたからこその苦悩や葛藤も断片的に挿入されていて、その暗さや重みがあることで、ドラマの奥行きも深まっている。
読んでいて感じるのは、そもそも人を好きになって、相手を理解して、距離感を近づけていくということ自体、厄介で難儀だなぁということ。ただ、だからこそ得られるものがある。
そんなシンプルなことを教えてくれる作品だ。
関根くんをライバル視して、結果としてアシストもする努力型のモテ男・堂島のキャラクターも効いていて、男女問わず惹きつけられること間違いなしの不器用でいとおしい恋愛ドラマだ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。