『ビッグ作家 究極の短篇集 藤子不二雄A』
藤子不二雄A 小学館 720
7月6日は大人気映画「ランボー」シリーズの主人公、ジョン・ランボーの誕生日である。
シリーズ第1作『ランボー』にて、シルヴェスター・スタローン演じるランボーは、ベトナム戦争で活躍した「栄光のベトナム帰還兵」だ。
しかし、帰国後は戦争のトラウマにさいなまれ、社会から孤立してしまう。
田舎町の保安官からイヤガラセを受けると、ついにブチギレ! たったひとりで保安官事務所を相手に戦いを挑み、ついには州兵が出動する大立ち回りを演じた。
マーティン・スコセッシ監督の名作『タクシードライバー』の主人公トラヴィス(演じるのはロバート・デ・ニーロ)も、ベトナム帰りの海兵隊。
ベトナム従軍兵の帰国後の社会適応は、70年代のアメリカにおいて深刻な課題と考えられ、映画や小説の題材になることが多かった。
そんな「ベトナム帰り」が日本の繁華街で大暴れするのが、藤子不二雄Aが1972年に発表した短編「シンジュク村大虐殺」だ。
歌舞伎町のキャッチバーでぼったくりに遭った米兵がブチギレて、新宿で「大虐殺」をするという、衝撃的な内容である。
タイトルからも推察できるように、これは1968年、ベトナム戦争の最中に起きた「ソンミ村虐殺事件」にインスパイアされた作品であり、「非武装住民の虐殺」という理不尽さを訴えている。
その凄惨な内容から、長らく単行本化されない幻の作品だったが、2013年に小学館から刊行された『ビッグ作家 究極の短編集 藤子不二雄A』に、初めて収録された。
本作は、1972年当時の歌舞伎町の風景を克明に描写しているので、風俗史的な資料価値もある。
内容的にもビジュアル的にも、70年代の“匂い”を感じさせてくれる怪作といえるだろう。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。