講談社漫画文庫『告白 コンフェッション』
福本伸行(作) かわぐちかいじ(画) 講談社 \720+税
10月3日は10(と)と3(さん)ということで、「登山の日」。1992年に日本アルパイン・ガイド協会によって制定された記念日である。
ということで、今日は登山に関するマンガをおすすめしたいわけだが、一種の極限状況ともいえる登山を舞台にした名作は数多い。
たとえば、おそらくこのジャンルでは代表的と言っても差し支えないであろう村上もとか『岳人列伝』や、山岳救助を題材とした石塚真一『岳』をはじめ、あまりスポーツのジャンルには縁のない手塚治虫も『魔の山』という作品を残している。このように、登山を扱った作品には枚挙にいとまがない。
そんななかで、あえて今回ピックアップしてみたいのが、その極限状況と異常心理を絶妙にマッチングさせた『告白 コンフェッション』。原作は福本伸行、作画はかわぐちかいじというビッグネーム同士のタッグで、単行本1冊とは思えないほどの濃厚なサスペンスが味わえる。
作品の性質上、内容の紹介は最低限にとどめておくが、雪山で遭難した状況で過去の殺人を告白するも、救助される見込みが強まったため、本来なら喜ぶべき事態が命がけの駆け引きをする羽目に……といった物語。その心理描写の秀逸さは、原作が福本伸行ということで折り紙つきである。
……って、せっかく「登山の日」なのに、これじゃあ山登りしたいなんて気持ちは一片たりともわいてきませんね。
「もっと普通に山の楽しさを知りたい!」という向きには、殺人はもちろん、極限状況とも無縁の登山マンガ『ヤマノススメ』が最適。「ゆるふわアウトドアコミック」などと銘打たれてはいるものの、用語解説やアドバイスもしっかり織り込まれた、初心者にはうってつけの内容。キャラ萌え的な視点だけでなく、じつは入門書としてもおすすめだ。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。