読者としての自分が求めた「京都の街を歩く美星さん」
——コミカライズオリジナルエピソードである第六章「流れ星の長い旅」も、京都の街の風景が多く登場しますよね。
峠 連載がスタートすると、トリックや謎解きにページ数を割かれて、描きたかった京都の街がスポイルされちゃったんですね。だから、ひとつくらいは京都の街に関する話を描きたかった。
——京都を描こうと思ったとき、なぜ金平糖というアイテムをチョイスしたのですか。
峠 僕が、一番京都取材で感動したのが金平糖(笑)。金平糖ってものすごい甘いイメージがあるんですけど、それが覆されたかなって。作中では、お店の名前を変えてありますけど、「京都 金平糖」で検索すれば一発ですよ。あの金平糖屋さんがあるのが銀閣寺のまわりなんですけど、まあいいところですよ。アオヤマくんが住んでいるのもあのあたりです。
ガイド役としてゲストキャラはつけたけど、そこをのんびり歩く美星さんの話が描きたかったんですね。
——オリジナルエピソード、少し内容に踏みこんだことをお聞きしたいのですが、ミステリというよりは、どちらかというと『世にも奇妙な物語』的なテイストじゃないですか。ああいう方向性にしたのは。
峠 まあ、単純にミステリ作家ではないですから。中途半端にやりたくなかったんですね。作りこむ時間もなかったですから。
キャラクターを掘りさげるような日常劇にしようと思った時、誰のことを描くか悩んだんですよ。どのキャラも好きなので(笑)。
——美星さんを選んだのは。
峠 みんなが見たいのはやっぱり美星さんなんだろうなって。それは僕も読者だったらそう思うので。だから、美星さんを掘りさげる方向で。
——常にしっかりものとして描かれてきた美星さんが、年下に翻弄されるという原作にはない一面がふんだんに描かれていましたね。そこが峠先生のおっしゃる美星さんのかわいさを描くということでしょうか。
峠 直接的でないにしても、そういうかわいさも原作で描かれてはいると思います。美星さんは、過去にいろいろあって、そのうえでクールビューティに見えるのって、もともとあった明るさや幼さをを隠すためだと思うんですよ。
——たしかに美星さんには、人を遠ざけるようなところもありますもんね。
峠 もともと美星さんって、もっと明るい人間だったんですよね。そういうところが晶ちゃんや、それこそ胡内を惹きつけたんだと思うんです。
それが、ある事件をきっかけに、心の壁を作って、自分の本心を隠しはじめたんです。けど美星さんにも、冗談を言ったり、フッとテンションが高くなる瞬間があるじゃないですか。その瞬間がものすごい愛せたんですよ。
——それが峠先生にとっての美星さんの「魅力」だったわけですね。
峠 そうですね。だから全体的に美星さんは、明るいキャラクターとして描いてます。オリジナルエピソードは、タレーランの店外で展開するお話であることと、ゲストキャラが女性だったので、美星さんの気持ちもゆるんだんじゃないでしょうか。あとはアオヤマの前じゃないし(笑)。
ただかなり明るく描いてはいますが、原作のもってるまじめというか、礼儀に正しさはきちんと美星さんに持たせているつもりです。言い方はおかしいかもしれないけど、非常にしつけが行き届いたっていうか。
——かわいさを第一に描いてらっしゃるということですが、それでも推理シーンの美星さんは、かわいいよりもかっこいいという印象をうけます。
峠 なんでかっこいいかって言ったら、美星さんには感情的だけど、その感情をコントロールする力があるからですよね。だからミルを回す瞬間って、変身なわけですよ。普段、明るくて、一見まわりなんて見ていなさそう子が、じつ些細な違和感も見逃していなかったっていう。普段からかっこいいキャラがそんなことをしても「へーそうですよね」っていう感想しか生まれないですからね。
これから深まる秋。
読者のみなさまにも、ぜひ『タレーラン』片手に京都の街を散策してみては?
そして次回、峠先生の思う「キャラクター」「京都」につづく『タレーラン』最大の魅力について語っていただいた。
9月28日更新予定!
取材・構成・撮影:このマンガがすごい!編集部