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『スパングル [新装版]』 鳩山郁子 【日刊マンガガイド】

2015/06/08


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『スパングル [新装版]』
鳩山郁子 復刊ドットコム \2,300+税
(2015年4月16日発売)


1987年のデビュー以来、美しくも妖しい魅力を持った少年たちが登場する、幻想的な作品を描き続けてきた鳩山郁子。
彼女が88年から92年にかけて主に「ガロ」にて発表した作品からなる初期短編集『スパングル』が、新規収録2篇と描きおろしイラストエッセイを加え、カバーイラストも描きおろした新装版で復刊された。

たとえば、「Limonea ActⅠ」「Limonea ActⅡ」と題された連作を読んでみよう。
硝子球の乗った門柱のある白壁の家で暮らすジロフォンとピオネア、そして、もうずいぶん前からベッドで眠ったまま目を醒さないリモネン。彼らはいつの時代のどこの場所ともわからない、外界から遮断された世界でひっそりと暮らしている。
静かな生活の端々にふとノイズのように挿入される、不穏な予感や違和感。 「僕達の居る所は何処なのだろうか」
「もし球の中の世界の方が現実だったとしたら?」
「救出を待っている?」
「どうして?僕達は永久の幸福を過ごせばいいじゃないか」

そんなポエジーかつ難解な台詞のやりとりのはてに、やがて残酷な世界の真実が明らかになるが、それでも彼らはそこから脱出することはなく、永久にその場所に留まり続ける。
その場所とはつまり、「子供」でも「大人」でもなく「男」でも「女」でもない、美しくも危うくはかない「少年の世界」だ。

著者は人形のように美しく、決して表情を崩したり、感情を露にしない少年たちを、硝子球、ターコイズ、電球、噴水、水琴滴、ディアボロマント……といった魅力的なオブジェクトとともに配置し、ジオラマのような「永久の少年の世界」を築いてみせる。
その作品世界は、極めて抽象的で難解で、従来の「漫画」とはあまりにかけ離れた構造を持つため、物語の意図するものがわからず、途方にくれる読者もいるだろう。
しかし「意味を読み解く」ことを放棄し、風景でも見るようにただ「眺めて」みれば、その硬質な世界に漂う、透明でひやりと冷たいロマンチシズムに魅了されるはずだ。

もちろん、稲垣足穂を始め、鳩山ワールドを構成する重要なファクターについて知れば、その楽しみ方はさらに深く果てしない。
テイストこそ異なるが、大島弓子ファンにもハマりそう。
耽美な絵のイメージから、なんとなく手に取るのをためらっていた人も、本作を入り口に、深淵なる鳩山郁子ワールドに足を踏み入れて。



<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69

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