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今年、改めて読み返したい「水木しげるの戦争マンガ」ベスト3 新聞社勤務/ライター・澤水月さん【目ききに聞く】

2016/01/07


特定ジャンルに詳しい「目きき」の人たちに、テーマ・著者・出版社……といったカテゴリ別に、必読のマンガ作品を教えてもらうコーナー、その名もズバリ「目ききに聞く」!

昨年度、日本のマンガ界で人々にもっとも衝撃を与えたニュースといえば、やはり怪奇幻想マンガの巨匠・水木しげる先生の訃報ではないでしょうか。
紙芝居・貸本の時代から現代まで、現役の漫画家として生きぬいた水木先生。その功績はあまりにも大きく、『ゲゲゲの鬼太郎』『悪魔くん』『河童の三平』といった少年マンガから、日本のみならず全世界から伝承を蒐集して描いた妖怪画、自伝やエッセイ、偉人・奇人の伝記コミックなど……その全容を、今なおつかみかねている方も多いのでは。

今回は、新聞記者として幾度か水木しげる先生の取材を担当したライターの澤水月さんに、「妖怪マンガ」と並んで水木作品の双璧をなす「戦争マンガ」について、水木先生との思い出とともに紹介していただきました。

澤水月さんさんイチオシの3作品

水木しげる「総員玉砕せよ!」

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『講談社文庫 総員玉砕せよ!』
水木しげる 講談社 ¥690+税
(1995年6月7日発売)

不朽の戦記名作、水木しげる翁の苛酷体験記として知られるが、「見張りの主人公(=水木)が太陽や鳥の美しさに見とれたから部隊全滅」とも読める。そこを含め、おそらく罪悪感を持ちつつ描ききったことが本作のすごみ。

これに関しては、どうしても生前にお聞きする勇気が持てなかった。
触れてはならない点かな……とずっと思っていたが、亡くなる約1年前の呉智英×南伸坊対談『水木しげる論』を読むと、戦地を訪れ先に死んだ者への「自分は長生き、愉快」との言葉、快楽至上主義の徹底に仰天する。

人間綺麗ごとじゃないと、髄からわかっておられる。生の希求が至上。そうでない社会がおかしい。だから人間に優しい。
真の敵が米兵でないのは大岡昇平『野火』に通じるし、『野火』が戦争未体験者の塚本晋也監督により公開された年、翁が旅立たれたのは象徴的。

水木しげる「姑娘」

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『講談社文庫 姑娘』
水木しげる 講談社 ¥524+税
(2010年8月12日発売)

戦争を一義的に描かないのも水木翁らしい。
『総員玉砕せよ!』は新兵の悲哀、上官・国家の理不尽が主題だが、本書はずばり日本軍人の中国女性への性加害を描く。

「肌許したからには妻に」とつきまとわれる場面がほんの少し艶笑的で、かえって極限。
辛酸なめ、腕なくし、しかし天皇(昭和でなく今上)に会う際は喜び、南方熊楠にならいハットを用意(天皇は好きなのか!)……。一筋縄でいかない人間くささが愛おしい。

水木しげる「劇画ヒットラー」

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『水木しげる漫画大全集 20世紀の狂気 ヒットラー 他』
水木しげる 講談社 ¥2,300+税
(2015年11月2日発売)

併録作で第三帝国構想の建築を夢幻的に美しく描き、「18の頃ヒットラーに心酔」と告白! 従軍前の思いを綴ったものだが、正直。

例の極めて繊細写実的な点描の前に、すっくとマンガデフォルメのキャラとして立つヒットラーに、「妖怪として描いてる!」と改めて気づく。傷痍帰還兵だからこそここまで描けるのか……アラマタの手引きで死後会見するぶっ飛んだ構成はお茶目とすら言える。

思い出すと、水木翁とお会いした時も、お茶目なことばかり。

筆者は初めて水木プロにうかがった2008年、なんとしても印象の爪痕を残したかった。
ご挨拶の菓子折を社員の方にお渡しした後「目玉おやじの花です」と、へレニウム・オータム・ロリポップなる黄色い目玉そっくりな花を出した際の「ナニっ!?」という少年のような反応が忘れられない。

その頃、水木プロでは来客を、まず弟の武良幸夫さんが応対されていた。幸夫さんは水木翁ソックリ。当方が幸夫さんを水木翁だと思い、しばらく緊張しまくりながらご挨拶してる途中に、「俺、弟! わっはっは」と呵呵大笑、その後ご本人がお出ましになるのは参った。
水木ファンの中川翔子さんと対談する企画を実現させたが、しょこたんにも同じ流れの登場の仕方で驚かせていたのは兄弟仕組んでの冗談だったのかもしれず、今思い出しても頬がゆるむ。

極め付けは、ドラマ『ゲゲゲの女房』絡みでの奥様・武良布枝さんの取材。
奥様にお話をうかがっている時、まったく前触れなく現れ、特に話さないけど、ちょっかい出しまくる!
文化功労者選出の翌日だったので、山ほどあったラン鉢植えをあっちこっちに動かしたり、「花だらけだなぁ」とつぶやいたり……妖怪そのものの微笑ましさ。どっかり隣にお座りになり、本当にうれしそうだった。
この不思議な様子をそのまま紙面にしたのだが、奥様に脚光が当たったことがことのほかお喜びだったらしく、記者冥利に尽きた。

あのお茶目な好奇心で、今は冥界を存分に探求しておいでと思う。
ご冥福……というより、たくさんの世界とものの見方を教えてくださったことに感謝し、道中お気をつけてと、お見送りしたい。


ご協力者:澤水月

読売新聞社勤務/ライター/平山夢明mixiコミュ管理人。

本名の尾崎未央で、新聞記者として特に2000~2012年に芸能・文化系を集中的に取材執筆。
課外活動の共著に2010年『村崎百郎の本』(アスペクト)。

怪奇、ホラー、ゴスを愛し、成り行きでロフトプラスワン草創の頃より深く関わり、フリペ「ROOFTOP」毎号寄稿。プラスワンから新聞社直行の90年代を経て、「どメジャー」と「どアングラ」を四半世紀観察し続ける。

読書メーター:http://bookmeter.com/u/14463

単行本情報

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