日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『最高の夏休み』
『最高の夏休み』 第1巻
ジドルー(作) ジョルディ・ラフェーブル(画) 原正人(訳) 飛鳥新社 ¥1,200+税
(2017年7月13日発売)
離婚率7割(10組のうち7組が別れる)ともいわれるベルギー。
そのベルギーに住む、売れない漫画家のピエールとその妻・マド、そして4人の子どもたちが1973年の夏にヴァカンスにでかける。高速道路も使わないで、風景を楽しみながら南フランスを目指す一家だが、じつはピエールとマドのあいだには離婚話が持ちあがっている。
旅の途中で知りあった男がいう「夏は南に行くもんだろ」。
そう、夏は南に行くものだ。夏は、陽の光を浴びて、観光地の緑や川の水面を眺めながら、歌を歌いながら南を目指すものだ。
毎年やってくる夏のうちの、そのたびごとにかけがえのない、1つひとつの夏の思い出。一生のうちで、同じ夏を過ごすことのできる人など存在しない。
仕事が忙しくても、離婚するかもしれなくても、喧嘩ばかりしていても、いや、だからこそピエールたちはヴァカンスに出かけたのかもしれない。
「思い出」といってしまえば容易に美化されてしまうかもしれないいろんな経験のほろ苦さを織りこんで、きれいごとにしてしまうことのできない、ちょっと複雑な涙の味がする記憶を呼び起こす旅。そんな読書体験がここにはある。
フランス語圏のマンガ(バンド・デシネ)を日本に紹介し続けている合同会社ユーロマンガからのこの1冊は、夏の美しい情景と家族のせつない記憶がないまぜになった物語。
ノスタルジックな音楽を聴きながら、能天気な軽口とときどきさしはさまれる真剣な表情を眺めながら、きっとだれにでも訪れる特別な思い出をたどってほしい。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!』のアンケートにも回答しています。
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