日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ゆれるるる』
『ゆれるるる』第1巻
加賀やっこ 小学館 ¥429+税
(2016年5月26日発売)
さらさら髪の優しい美貌、教師の時は黒縁眼鏡。妻、あり。
九条美潔(くじょう・みゆき)。
彼によって振りまわされ心揺さぶられるのは、その生徒たちにとどまらない。
いつも美潔と同じ電車に乗り合わせる女性が、その巧みな手練手管にあっという間に陥落させられた。
まずこれを冒頭に持ってきて彼の手に負えなさを見せつけるあたり、何ともニクい演出だ。
この九条美潔という男、まさにトリックスター中のトリックスターである。
主人公・大川菜々花は3人しかいない合唱部の新部長。
剣道部の主将・矢崎剣伍にずっと想いを寄せている菜々花だが、彼女は部活のこと以外については消極的で、一歩踏みだすことができない。
そこへ現れた新任教師・美潔。
菜々花に容赦なくひどいことを言う反面で、菜々花を剣伍に近づけるため、思いきった行動を仕掛けたりする。
そして恋愛だけでなく学校生活でも、美潔は菜々花を助けたかと思えば、すぐにこっぴどく突き放す。菜々花の心はただ、揺れて揺れて――。
さてこのマンガ、何がすごいかというと、やはり九条美潔のキャラ造形につきるだろう。
主人公だけでなく周囲のすべての人間を引っかきまわす、その台詞も行動も表情もじつにみごとだ。
基本の台詞が殺し文句であり、基本の性格がヤバいことだらけ。
しかしだからこそ、一度彼に魅入られたら(面倒だが)さぞ毎日がスリリングで楽しかろうと読者に思わせる。そんな、非常にツボをとらえた人物になっている。
また菜々花が合唱部だからだろう、音楽が常に流れているような全体の雰囲気も心地よいし、音や声を多用するネームも印象的だ。
菜々花にとっての剣伍は「まっすぐ響く好きな声」であり、「低い“ド”」の音。
美潔は「ささやくようなテノール」であり、彼のピアノは「なつかしい音」「信頼できる音」。
そんな音にあふれた世界のなかでは、美潔のキツい言葉もやはり美しく優しく、妖しい。
この空気感をもっと味わいたい人は多数存在するだろう。続刊が待たれるところだ。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」