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『白暮のクロニクル』第5巻 ゆうきまさみ 【日刊マンガガイド】

2015/05/22


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『白暮のクロニクル』第5巻
ゆうきまさみ 小学館 \552+税
(2015年4月30日発売)


厚生労働省から保健所へ出向している、新人で天然の長身女子・伏木(ふせぎ)あかり。食中毒の調査のためある店を訪れた彼女は、そこで斬殺遺体を発見してしまう。
事件に驚きひるみながらも、あくまで保健所職員としての仕事をまっとうしようとするあかりと、そんなあかりの一生懸命な仕事ぶりを見ていた厚生労働省・大臣官房参事である竹之内。
後日、彼女は竹之内に突然呼び出されて、「夜間衛生管理課(やえいかん)」なる謎の部署へ異動を命じられる。そこに待ち受けていたのは、「オキナガ」という不老不死の種属の存在と彼らをめぐる事件。そして、見た目は少年ながら実年齢は88歳というオキナガで、12年に一度の惨殺事件・通称「羊殺し」の犯人を追う雪村魁だった……。

ゆうきまさみが紡ぎ出すミステリー『白暮のクロニクル』の最新第5巻が発売された。
今回描かれるのは、厚労省の管理下に置かれるオキナガたちの療養施設・光明苑での物語だ。

研修のため、長野の山奥にある光明苑に出向いたあかりは、そこで哀しき存在であるオキナガたちの苦悩と現実を目の当たりにする。
また、魁が追う「羊殺し」と接点を持つオキナガで、隔離棟で60年間眠りつづける柘植章太という人物にも出会うことになる。

タイトルの“クロニクル”とは“年代記”という意味で、魁を中心にオキナガと彼らをめぐる人物の過去・未来・現在が層を織り成して、物語は進んでいく。そこで明かされていく、背景、謎、秘密。
複層的な物語となっているが、本作のあり方自体もまた複層的で、そこもまたおもしろいところだ。事件を追っていくミステリーでありながら、一方では日常譚でもあって、あかりの私生活や周囲の人々の掛け合いが、とぼけた味わいで描かれる。

しかしその裏に怪事件があって、その近くにはオキナガという不可思議な存在がいる。
ありふれた日常と、サスペンスフルな非日常。その重なり具合と味わい深さこそ、なによりミステリアスだ。

“中二病”という言葉があるが、ゆうき作品は広い意味でまさにそんな作品なのだと思う。
思春期のあの頃、平凡で退屈で、疎ましくも恐ろしくもあった日常のなか、思い描いていたもうひとつの現実。この日常の裏に、こんな非日常がひそんでいたら、楽しくも怖くもおもしろい。そんな世界を、ゆうきまさみは描き出してくれている。

マイノリティを扱っていることで、社会性もはらむ本作。また一方で、不老不死の種族のクロニクルということでは、萩尾望都のファンタジー『ポーの一族』もほうふつとさせる。

そう、社会派ファンタジーでもある本作。淡々とした描写のなかにも、いや、淡々とした描写だからこそ心の機微も深く描かれていて、大人のための人間ドラマでもある。おじさんキャラたちの魅力含め、作者の過去作『機動警察パトレイバー』のファンは待ってましたという作品だが、いままでのゆうき作品にはない”いま”ならではの魅力も横溢する良作だ。

【ゆうきまさみ先生のインタビューはコチラ



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。

単行本情報

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