『蟬丸残日録』第1巻
ツナミノユウ 講談社 \560+税
(2015年7月23日発売)
『蟬丸残日録』は、ギャグマンガ『シュメール星人』、『彗星継父プロキオン』などで知られるツナミノユウの新連載。
平凡なサラリーマンの蟬丸は、ある朝起きるとセミになっていた……という設定は、一見カフカの『変身』のセミ版のようだが、そこからさらにひとひねり加わっている。
セミといえば「短命」。焦った蟬丸はハードディスク内の煩悩の塊を削除!
さらには悔いのない最期を迎えるためスーツに着替えて出社を続ける……。
だが、1週間が経ち、1ヵ月経っても、一向に寿命がやってくる気配がない!?
後輩の前でなるべく格好いい辞世の句を残そうとしたり、年下の女上司の前でいさぎよく死を受け入れている風を醸し出そうとしたり……それでも生き続け、毎日出社してくる蝉丸。
基本的には「死ぬ死ぬ詐欺」だが、やや自意識過剰な蟬丸と、気を回しすぎる周囲の人たちは至ってまじめ。
そこに、サラリーマンあるあるとセミあるあるが交錯し、シュールな笑いを生む。
「短命」を気にする前に、セミになったこと自体を悩めよ! というツッコミは野暮だ。
<文・卯月鮎>
書評家・ゲームコラムニスト。週刊誌や専門誌で書評、ゲーム紹介記事を手掛ける。現在は「S-Fマガジン」(早川書房)でライトノベル評(ファンタジー)を連載中。
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