『珈琲店タレーランの事件簿』第1巻
岡崎琢磨(作) 峠比呂(画) 宝島社 ¥690+税
(2015年8月19日発売)
京都の街のなか、奥まった路地の裏にあるちょっと不思議な雰囲気の珈琲店・タレーラン。
そこには、ショートカットでほっこりした笑顔のバリスタ(珈琲のソムリエのようなもの)・切間美星(きりま・みほし)がいる。
彼女の淹れるコーヒーに魅了される青年・アオヤマ。美星と話を重ねていくうちに、彼女がとんでもなく頭の切れる推理力の持ち主であることを知る。
日常でおきる、ささいないさかいやちょっとした疑問を、アオヤマの目の前で美星は次々に解いていく。ハンドミルを回しながら。
「その謎たいへんよく挽けました」
『このミステリーがすごい!』に応募された小説のコミカライズ。
童顔でのほほんとした雰囲気。はきはきとした敬語で、バリバリ謎を解いていく美星は見ていて心地いい。
作画担当の峠比呂は、「人間は生活・仕事・恋愛がひと続きである」という表現がうまい。
本作以前に、峠が描いた『これだからアニメってやつは!』でテーマになっていたのは、三十路の女性の人生。
アニメ制作進行という忙しい仕事に誇りをもって携わるかたわら、自分の日常と、監督になった彼氏との関係それぞれに折り合いつける様子が描かれた。
峠の描くキャラクターを見ていると、「普段一緒に仕事や勉強をしている友人が、見たこともない顔をしているのを目撃した」時のような、ドキリとする感覚におそわれる。
人間は、幾重にもわたる生活や思考を持っているもの。普段目にしているのはそのほんの一部分でしかないのだ。
『タレーラン』の美星はやさしくて、いつも笑顔のかわいい女性。
いっぽうで淡々と敬語で謎を解いていく様は、まるで技術者のよう。
そして、美星はだれに対しても心を開きってはない。
アオヤマが見ている彼女の笑顔は、本当の笑顔ではない。
一番のミステリーは、美星の生き方と見えない感情そのものなのだ。
美星は「切れ者バリスタ探偵」なんて単純な言葉でくくることはできない。
バリスタの仕事に誇りを持ちつつ、人との距離を常に考え悩んで生きている。そして何かを隠している、ひとりの女性。
本書109ページで、普段温厚な彼女が後ろを向いてちょっとだけ怒るシーンには、ドキリとさせられる。
そしてすぐ後に振り向いて笑顔になるのには、さらにドキドキする。彼女は何を考えているのだろう?
謎は解けるからおもしろい。人はわからないからおもしろい。
9月には第2巻が発売とのこと。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」