今回紹介するのは、『はじまりの竜とおわりの龍』
『はじまりの竜とおわりの龍』第1巻
海人井槙 小学館 ¥694+税
(2016年5月12日発売)
2014年に休刊した月刊マンガ誌「IKKI」。
その新人賞「イキマン」を受賞してデビューしたのが海人井槙。初の描き下ろし単行本となる本作のオビには「最後にして最大級の新星、熱筆」とあるが、まさに力のこもった一作。
古代中国を思わせる架空のオリエンタル世界が風習・文化の面まで構築され、竜と龍と人とをめぐる4編のエピソードが展開されていく。
――帝によって聖域と定められた龍の森では、千人にも満たない氏族が龍を飼い、暮らしていた。
ある時、よそ者ながら龍使いの森に馴染んだ娘・ヒウは、その巫祝の力を族長に見込まれ、行方知れずとなった龍使いを探すため遠視を頼まれる……。(「鳥来る」)
すべての始まりを描いた神話の気配漂う短編「竜と三人」、山の民のもとへ霊薬を求めて都の兵がやってくる「竜公」、最後の龍使いの誕生を語る「雨ふらせ」(「イキマン」受賞作)……。
何にでもなれる超形態の不思議な生き物「竜」と、人に食われることでその胎から産まれ出る「龍」が分けられているのも興味深い。
時系列を追うかのように、ゆるやかにつながる4話は、神秘的な竜/龍を純粋に愛す者と、渇望・利用せんとする者の衝突のドラマであり、それは普遍的な人間の歴史ともとれる。
竜/龍の存在感、“気”のようなものがすみずみまで満ちた世界。読者はそこに呑みこまれてしまう。
<文・卯月鮎>
書評家・ゲームコラムニスト。週刊誌や専門誌で書評、ゲーム紹介記事を手掛ける。現在は「S-Fマガジン」(早川書房)でファンタジー時評、「かつくら」でライトノベル時評を連載中。
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