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『スローモーションをもう一度』 第1巻 加納梨衣 【日刊マンガガイド】

2016/11/27


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『スローモーションをもう一度』


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『スローモーションをもう一度』 第1巻
加納梨衣 小学館 ¥552+税
(2016年10月28日発売)


80年代カルチャーに魅せられた少年少女が紡ぐ“君に胸キュン”なラブストーリー。タイトルはもちろん、中森明菜が1982年に発表したデビュー曲からの本歌取りだ。

高校1年生の大滝君は、クラスのヒエラルキーで上位に位置するイケてる男子だ。
しかし、それはかりそめの姿だった。本当の彼は80年代の音楽や玩具をこよなく愛する少年。80年代のアイドル雑誌をスクラップしながら、どこかに明菜のような女の子がいないかな~と夢想する日々である。

そんな大滝君とクラスで机を並べるのは、存在感がかぎりなくゼロに近い女子・薬師丸さん。
先生に落し物の定期券を届けるよう指示された大滝君は、しぶしぶ彼女の自宅に向かうが、そこで目にした光景は、フリフリの衣裳で明菜を歌う薬師丸さんだった……!?

以降は同じ趣味を持つ2人が急接近! ウェ~イ系なクラスメイトのあずかり知らぬところで、レトロなオモチャで遊んだり、コスプレしたり、カラオケをしたり、情報交換したり、時にはドキドキしたり。

本作のキモとなるのが、大滝君も薬師丸さんもエクストリームな80年代趣味の持ち主ということ。
単純に明菜や聖子、おニャン子クラブといった当時のアイドルが好きという10代は実在するかもしれないが、本作の主役2人は、ウォーターゲームやスカイホッピーといった玩具から『スケバン刑事』、『さびしんぼう』といったドラマや映画、さらにはポケベルに至るまで、あらゆる文化、事象にどっぷりとハマり、当時と同じファッションでタイムスリップ気分を楽しんでいるのだ。

ものすごいスピードで情報が右から左へ流れていく現代社会に乗り遅れ気味の2人が、自分たちが生まれるはるか昔の世界に浸りながら、“恋の速度、ゆるやかに”心を通わせあうさまに胸が締めつけられる。

40代以上の人は続々と登場する懐かしの固有名詞に頬を緩ませ、若い世代は新鮮な気分で初めて聞く名前や文化を受け止めながら、大滝君と薬師丸さんの大切な秘密の時間を見守る、そんな温故知新の恋物語だ。



<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口を凌ぐライター。

単行本情報

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