このマンガがすごい!WEB

一覧へ戻る

『竜と勇者と配達人』 第1巻 グレゴリウス山田 【日刊マンガガイド】

2017/03/20


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『竜と勇者と配達人』


ryutoyusyatohaitatsunin_s01

『竜と勇者と配達人』 第1巻
グレゴリウス山田 集英社 ¥630+税
(2017年1月19日発売)


集英社のWEBマンガサイト「となりのヤングジャンプ」にて連載中の『竜と勇者と配達人』単行本第1巻が、1月に刊行された。

たとえば、こんな場面が洋風ファンタジーゲームにあるとする。

勇者がドラゴンに攻撃!
●●ポイントのダメージを与えた!
ドラゴンを倒した! パンパカパーン!(ファンファーレ)
経験値を●●、お金を●●ゲットした!

……さて、実際には、この時何が起きているのだろうか?

もしかすると、だれがどうやって戦ったか現場でメモして、経験値の見積もりを立てる記録官なんてのがいるかもしれない。
もしかすると、戦いに勝利した時にすかさず楽器を鳴らして周囲に知らせるための楽師がついてきているかもしれない。
もしかすると、倒したドラゴンの肉・皮・うろこをさばく解体屋がいたり、それを買いつける商売人がいるのかもしれない。
さらには、戦いにはまったく参加せずに、まわりで勇者が勝つかドラゴンが勝つか、野次馬に賭けさせてもうけている賭博屋までいたりして。

そんなふうに、剣と魔法の世界にあって“剣持たざる者”たちにはどんな仕事がありうるのかという思考実験を描いていくのが、本作『竜と勇者と配達人』である。

都市国家の体制が整いつつある中世風の世界でたくましく生きる主人公・ハーフエルフの吉田(女性)もまた、そうした裏方の仕事に就いているひとり。
彼女が所属するのは「駅逓局(えきていきょく)」。
つまり国営の郵便屋さんで、立場はまだ配達人の見習いだ。

プライベートな私信から、税金の督促状まで、様々な書簡を津々浦々に届ける吉田さんだが、なんといっても時代が時代。
急成長のなか乱雑に発展した都市では街路が入り組んで、誰々宛てという指定があっても住所がどこやら正確にわからないことが多い。
せっかく国が「●●通り」と通りの名をしるした看板を設置しても、役所にいどころをつかまれるなんてまっぴらだと嫌う市民にひっぺがされてしまう。
しかし吉田さんはめげることなく、一人前の配達人を目指し、送り先がどんな場所だろうと、受け取りをいやがられようと、手紙を配り続けるのであった。

題材となる職業や状況は架空のものだが、そこにはどれも現実の中世ヨーロッパについてのしっかりした調査が反映されている。
エピソードの合間には著者によるコラムがあり、アイディアのもとになった史実の出来事が紹介され、一種の資料としても楽しく読める。
なにしろ著者のグレゴリウス山田氏、中世に実在した職業100種以上を詳説した大著『十三世紀のハローワーク』を出すほどだから、その造詣深さは並ではない。

現実を材料にしてファンタジーを組みあげ、そのファンタジーを通して現実をわかりやすくひもとくという、循環した趣向。
そこに『竜と勇者と配達人』というマンガのおもしろさがある。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

  • 『竜と勇者と配達人』 第1巻 Amazonで購入
  • 『中世実在職業解説本 十三世… Amazonで購入

関連するオススメ記事!

アクセスランキング

3月の「このマンガがすごい!」WEBランキング