「あの話題になっているアニメの原作を僕達はじつは知らない。」略して「あのアニ」。
アニメ、映画、ときには舞台、ミュージカル、展覧会……などなど、マンガだけでなく、様々なエンタメ作品を取り上げていく「このマンガがすごい!WEB」の人気企画!
そう、これは「アニメを見ていると原作のマンガも読みたいような気もしてくるけれど、実際は手に取っていないアナタ」に贈る優しめのマンガガイドです。「このマンガがすごい!」ならではの視点で作品をレビュー! そしてもちろん、原作マンガやあわせて読みたいおすすめマンガ作品を紹介します!
今回紹介するのは、TVアニメ『エロマンガ先生』
今春話題の新作アニメ『エロマンガ先生』が、いよいよ本日よりTOKYO MXほか各局で放送スタートする。
一介の高校生でありながら、兼業でライトノベル作家の仕事をもつ兄・和泉政宗。
12歳の美少女中学生、かつ重度の引きこもり、そして血のつながらないきょうだい、さらには素性を隠して活躍するプロの覆面イラストレーターという盛りだくさんな属性をそなえた妹・和泉紗霧。
ある時まで、兄は気づいていなかった。
自分の小説にすばらしいイラストをつけてくれる、ペンネーム「エロマンガ先生」。その正体が、1つ屋根の下にいて長いこと顔をあわせていない、かわいい妹だということを。
遠くて近い仕事のパートナーが、近くて遠い家族と同一人物だった。
そんな驚きの事実を知った時、兄妹の日常は家庭内とライトノベル業界の両面から波乱を増していく!
……という具合に、タイトルも内容も一筋縄でいかないドタバタ&ハートフルなコメディだ。
原作は、作者・伏見つかさ、イラスト・かんざきひろという『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』コンビによる同名のライトノベルシリーズ。
アニメ版『エロマンガ先生』は、ほかならぬ『俺妹』のアニメ第2期を手がけたA-1 Picturesが制作しており、キャラクターデザインが織田広之という点も共通項となる。
監督は、今回が初の監督クレジットとなる竹下良平。『月刊少女野崎くん』でチーフ演出、『NEW GAME!』で副監督という経歴があることから、本作でも“業界コメディ”の側面をいきいきと色づけてくれることだろう。
総作画監督は『ToLOVEる』シリーズの岡勇一と、ライトノベル系アニメのほか『ハイスクール・フリート』『ブレイブウィッチーズ』などに携わった小林真平の共同。シリーズ構成は今やアニメ畑でもベテランとなった、ゲームシナリオ分野出身の高橋龍也。
ひとクセありつつ愛嬌をあわせもつヒロインたちがひしめく原作の持ち味を最大限に引き出してくれそうなスタッフがそろっている。
声優陣は、まず“エロマンガ先生”こと紗霧を演じるのが藤田茜。近年『魔法少女なんてもういいですから。』でコメディ作品の主演経験を積んだ矢先のさらなる抜擢だ。
これを正宗役の松岡禎丞が支えることで、キャスト的にもお兄さんと妹分めいた安定感が図られている。
さて、この『エロマンガ先生』という作品。
リアルタイムなオタクシーンや業界模様を扱い、「えっち」な方面の事物も大胆に組みこみながら兄妹のホームドラマを深めていく……という趣向で「俺妹」を彷彿させる面も多い。
ただし、兄妹が非血縁であること、妹と仲良くなりたいと懸命に気を配る兄心、兄にもクリエイター設定がふりわけられて共同創作が強い絆となる関係のニュアンスなどなど、「俺妹」に重なるように見える要素を反転させたりシャッフルしたりして、じつは本作独自の色こそがかえって際立つようになっている。
実力派のスタッフがそこを上手くくみとり、「俺妹」から続けて追う伏見作品ファン・原作ファン・予備知識なしにふれる視聴者、すべての人それぞれの観点からフレッシュな楽しみを得られるアニメにしてくれることを期待しよう。
TVアニメ『エロマンガ先生』を観たあとに……
今回、TVアニメ『エロマンガ先生』をさらに楽しみたいアナタに、読んでほしいマンガ作品を紹介しちゃいますよっ。
『エロマンガ先生』伏見つかさ(作)rin(画)かんざきひろ(キャラクターデザイン)
『エロマンガ先生』第1巻
伏見つかさ(作)rin(画)かんざきひろ(キャラクターデザイン)
KADOKAWA ¥570+税
(2014年11月7日発売)
『エロマンガ先生』の原作が立ち上げられたのは、前作『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(通称:『俺妹』)完結と同じ2013年。2017年春現在、小説は第8巻まで刊行されているが、わりあい早いうちからマンガ版も出ている。
「月刊コミック電撃大王」で2014年に連載がはじまり、単行本は最新の第5巻が先月発売されたばかり。
コミカライズの作画をつとめるrinは、原作のキャラクターデザインをうまく保ちつつ、紗霧のあどけない気持ちの揺れをマンガとしての表情描写の絶妙なさじ加減で描き起こしており、その妹に対して家族としての絆を確立させようとする政宗の言動に説得力が生まれている。 アニメから入って「原作を読もうかなー」と検討中の方は、マンガ版もあわせて読むと、作品理解がより深まることうけあいだ。
『エロマンガ先生』のほかに、このマンガもおすすめ!
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』伏見つかさ(作)いけださくら(画)かんざきひろ(キャラクターデザイン)
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』第1巻
伏見つかさ(作)いけださくら(画)かんざきひろ(キャラクターデザイン)
KADOKAWA ¥570+税
(2009年10月27日発売)
電撃文庫の人気タイトル『俺妹』もコミカライズされている。
『俺妹』はメディアミックスにおいて、兄妹関係の解釈でそれぞれ微妙に異なるバランスがあり、妹・桐乃が兄・京介に対して抱く感情の方向や強さがどういう塩梅なのか読み取るのが媒体ごとの醍醐味となる。
いけださくらによるマンガ版の場合は、桐乃が京介に緊密な距離をつめる挙動が初期からみられるなど、“デレ”のニーズに訴える感情表現が各媒体のなかで最もハッキリしている。 また、本編コミカライズが全4巻で完結したあと、同じくいけださくらによって公式スピンオフ『俺の後輩がこんなに可愛いわけがない』(全6巻)が描かれており、こちらは人気ヒロインのひとり、黒猫を中心とした展開で、アニメ第2期に対して“別ルート”的な結末にたどりつくマンガとなった。
いけだは成人マンガ分野でも単行本を出しているだけあり、特に『俺の後輩~』のほうでは色気の強い表現もみられる。
原作がどう再現されているかだけでなく、担当した漫画家個人の特徴がどのように入ってくるのかもコミカライズの楽しみどころだ。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7