そんな息もつかせぬ死闘にも興味をグイグイ惹かれるのだが、本作をより魅力的にしているのがアシリパのキャラクターと、彼女の導きでおこなわれる狩り、そしてアイヌの食文化の描写だ。
アシリパのヒロインとしてのすばらしさは、ただ聡明でかわいいだけではなく、たくましく生きる姿にある。まさに“尊い”とはこのこと。
「不死身の杉元」と呼ばれる彼も北海道の厳しい環境では慣れないことが多いのだが、そんな彼に「くくり罠」でのリスの捕らえ方など、アシリパはここで生きるアイヌの狩りやサバイバル術を伝えていく。
その「くくり罠」や動物の習性などの知識が単なるウンチクに終わらず、バトルにおいてキーとなるのも大きな見どころである。
さらに本作で重要となる要素が「食」だ。捕らえたリスを「チタタプ」という、魚の「たたき」のような方法で生食するというアシリパに対して、かなりドン引きの杉元。
そして「脳みそ食べろ」と勧められ、かなり渋々な様子の杉元。
そんなやりとりのあと、本来は食べきれなかった時にのみそうするという「つみれ鍋」のような食事のうまそうなこと!
ピリピリした戦いの合間にときおり入るこういった食事のくだりがあまりに魅惑的であるため、本作を「グルメマンガ」としても高く評価している人も少なくない。
また、杉元が携帯する「味噌」を知らないアシリパが、かたくなにそれをウンコだと信じて食べようとしないといった文化の違いをはじめ、アイヌの習慣や言葉を知ることができるのもじつに楽しい。
アイヌの子供は病魔を寄せつけないという願いを込めて「汚い名前」をつける風習があり、アシリパの幼名が「エカシオトンプイ(祖父の尻の穴)」だったと笑顔で答えるのは、なんとも彼女の天真爛漫な魅力を増しているように思える(たぶん)。
そして、食事に感謝するときに使う「ヒンナ」という言葉は、きっと日常でも使ってみたくなることだろう。
非常に緊張感が高く、ときにはストレートに残酷な描写もある本作だが、それでも陰惨な印象を受けることなく、好感度をもって次への興味が尽きないのは、作品全体が「生きることへの活力」に満ちているからかもしれない。
まさに「血沸き肉踊る」という言葉がピッタリな作品だ。
ここから先の展開が、心から楽しみである。
『ゴールデンカムイ』著者の野田サトル先生から、コメントをいただきました!
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。