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『双子の帝國』 第3巻 鬼頭莫宏 【日刊マンガガイド】

2017/04/08


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『双子の帝國』第3巻


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『双子の帝國』
鬼頭莫宏 新潮社 ¥580+税
(2017年3月9日発売)


『ぼくらの』『なるたる』など、怜悧なビジョンで世界を捉え、残酷な状況を生きあがく少年少女を様々な題材で描いてきた異才・鬼頭莫宏。
その新作『双子の帝國』第3巻が刊行された。


本作は、「日出づる光国」が侵略戦争を繰り広げている「大陸」を舞台とし、おおよそのイメージは日中戦争をベースにしつつ、SFファンタジー要素を組みこんだ大河的な活劇である。

世界設定で特に目を引く特徴は、「光国」が空中を飛ぶ軍艦を保有していること。
史実の艦が飛行軍艦として登場しており、戦闘もすべて空中戦となることで独特の駆け引きが生まれ、見ごたえがある。

また、その設定を支えるのが、「空缶(そらがま)」というガジェットだ。
「魔法使い」と呼ばれる存在を介して流通していたオーバーテクノロジーの産物で、巨大な艦船を宙に浮かせる機関となるほか、武器や乗り物を虚空に隠しておいて自在に出し入れしたり、バリアやカッターとして戦いに応用できる力場のようなもので、全容はいまだ劇中で明かされていない。

主人公・ガウは、魔法使いが外部と交易をする際、唯一直接に取引して空缶を運ぶ仕事をしていた少数民族の出身。
かれの同胞は光国に虐殺され、いまや道連れは、魔法使いから金で買った少女・フアひとりだけだ。

ところがこの少女、身体に触れた人間の生命を奪うという呪いがかけられている。
有り金はたいて買ったのが抱けない女だなんて、バカな話があるか! と、納得いかないガウは、少女の呪いを解くため、滅んだともいわれる魔法使いを探す旅の最中。

そんなおり、光国に娼婦を提供する女衒(ぜげん)ともめごとを起こした2人は、特殊な身の上から軍に目をつけられ、狙われるようになってしまう。
ガウは空缶を使った戦法によって個人レベルの戦いなら無敵に近いが、大きな組織的戦力を相手取ったことで、ついに窮地へ陥る。

そこへ、さっそうと現れて助けをもたらした者たちがあった。
反・光国集団「五方(ウーファン)」。
それは、50人の元娼婦によって構成された独立愚連隊。
光国からぶんどった実験用の飛行軍艦を駆って戦う勇士たちである……。
と、ここまでが、第2巻までの概要となる。


最新巻では、重巡・高雄と「五方」の艦のあいだで激しい空中砲撃戦が展開。
戦闘がいちおうの決着をみたあと、ガウとフアが「五方」に保護されるも、ガウが男であるということから処遇をめぐって艦内に議論が起こる。
一方、ガウは民族の価値観として激しい男尊女卑の思想を持っているため、自立して戦う女性ばかりの生活環境でたびたび摩擦と戸惑いを抱き、フアとの間にもかすかな変化の前ぶれを迎えることになる。
「光国」対「大陸」という国家戦争の構図に、男たちの戦争のなかでモノ扱いされてきた女たちの反抗という軸が通ることで、特定の国や民族をこえて普遍的な問題につながる“テーマの顔”がはっきりする、節目の巻といえる。

「これはこういう作品なんだよ」といいやすくなったという意味では、今こそ未読の方に1~3巻一気読みでおすすめしたいタイミングだ。


以下、鬼頭作品ファン向けの余談。
なぐさみものとなることを求められる異質の少女、その少女に関わって右腕を失った少年、飛行機……という要素の点在で、鬼頭氏の初期作『ヴァンデミエールの翼』が変奏して取りこまれたように感じる部分がありますねー。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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