『のりりん』第11巻
鬼頭莫宏 講談社 \619+税
(2015年4月23日発売)
自転車に乗ることも、乗っている連中も大嫌いな28歳のサラリーマン・丸子一典(まりこ・かずのり)、通称「ノリ」が、ロードレーサーを華麗に乗りこなす女子高生・織田輪(おだ・りん)と知り合ったことから、奥深き自転車の世界に足を踏み入れる物語『のりりん』が完結。
ちょっとかわいそうな展開で免許取り消しとなり、通勤のために仕方なく自転車に乗り始めたノリは、自転車マニアの織田一家にけん引される形で少しずつロードの魅力に開眼、周囲の友人も巻きこみながらツーリングを楽しみ始め、サーキットを舞台にした大規模なレースに出場するまでに至った。
この最終巻では、序盤から積み上げられたいくつもの謎がイッキに明かされることになる。
なぜノリは自転車を忌み嫌っていたのか? リンが博多弁を使うのは何ゆえなのか? リンが想い続けている初恋の相手は誰なのか?
ゆったりと連載を続けてきた「イブニング」での5年間がウソのように大放出である。
重要な新キャラが矢つぎばやに登場し、ゴールへ向けてやや急いでしまった感もあるが、過去を引きずっていたノリが、力強く前へ進もうと決意するラストシーンは美しかった。
そもそも本作は物語性に力点が置かれていたわけではなく、大人の趣味である自転車の楽しさを読者に伝えることが主たるテーマであった。
走行シーンのリアルさは特筆モノで、キャラクターたちの息苦しさや爽快さを読み手に体感させる表現は、数多ある自転車マンガのなかでも最高峰だ。
そのほか、フレームなど各パーツのマニアックな解説、自転車競技の独特なルール、道交法にそって気をつけるべき点やマナーなど、あらゆるベクトルから自転車ライフにスポットをあてている。
これから本格的にロードを始めようと考えている御仁にはうってつけの教科書だし、そうじゃない人もひとたびページをめくれば、ひさしぶに自転車で遠出をしたくなることうけあいですよ!
<文・奈良崎コロスケ>
マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。映画『新宿スワン』(園子温監督/5月30日公開)の劇場用プログラムに参加します。
「ドキュメント毎日くん」