『なにかもちがってますか』第5巻
鬼頭莫宏 講談社 \600+税
(2015年4月7日発売)
『ぼくらの』などで知られる鬼頭莫宏による、「中学生らしい世直し」の完結となる最新刊。
未読の方のためにあらすじに触れておくと、一見ごく平凡な中学3年生の日比野光(ミッツ)は、転校生の一社高蔵(イッサ)が登校初日からいきなり起こしたクラスメイトとのトラブルを止めようとして、無意識に机の脚を切断。その後イッサによって、それは「自分の近くの空間と、ターゲットの空間を入れ替える」という超能力であると指摘される。
そして「ルールを守らない人間をいなくしたい」という尊大な(そして中学生っぽい)理想を持つイッサは、ミッツの能力を使って「町内美化運動」みたいなノリで、「ゴミみたいな奴を殺す」という「世直し」を始めてしまう。
……とまぁ、ちょっと『寄生獣』の映画を観て「殺人よりもゴミの不法投棄のほうが悪」みたいな論説に影響されちゃった少年たちが、超能力を持ってしまったらどうなる? という物語なのだが、タイトル通りに“なにかまちがってる”ことに気がつかないままどんどん事態は進行。
かつ中学生らしい行動範囲の狭さと至らない計画によって、あっという間に「世直し」は壁にぶつかってしまうのがミソである。
過去の作品を知っている読者からすれば、「もっと悲惨なことが待っているかと思ったら、意外とあっさり終わった」という印象もあるかもしれないが、いやいや、これはこれで十分に衝撃的な物語。
たしかに最終巻は、率直に言えばもう少し「中学生なりの正義の実行」を読んでいたかったという気はするのだが、全体としては鬼頭莫宏らしい、いい意味で考えさせられるところの多い作品である。
彼らのことを「中学生らしい短絡的な発想」と言うのは簡単なことかもしれないが、誰しも作中でターゲットにされる携帯で通話しながら運転している人やゴミのポイ捨てをする人、あるいは路上駐車やら歩きタバコといった行為に怒りを覚えた経験はあるはず。
そして「だからって殺しちゃダメでしょ!」だとか、あるいは「でも、彼らの言うこともわかるよね」といった具合に、引っ掛かりまくりながら未読の方には読んでほしい。
この、明らかに賛否両論となりそうな論説の数々こそ、作者の仕掛けた「トラップ」でしょうから。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。