『新世紀エヴァンゲリオン』第14巻
貞本義行(著)カラー(作) KADOKAWA/角川書店 \580+税
(2014年11月26日発売)
雪景色をバックに、ダッフルコート姿のシンジが立ち尽くす表紙(通常版のみ)――『エヴァ』の世界は「終わった」。
南極で起こったセカンドインパクトにより地軸がずれ、日本から四季がなくなり「ずっと夏」になっていたのは、テレビシリーズ/旧劇場版/新劇場版でも、共通の約束ごと。
真っ白に降り積もる雪や防寒着は、地軸が正されたもとの世界の続きか、別の世界が創造されたのか。どちらにしろ「あの世界」は過去になったしるしだ。
「月刊少年エース」での連載スタートから数えて18年、今回のコミック最終巻にて19年越しの完結を迎えた貞本版『エヴァ』。
「マンガが原作、それをアニメ化」ではなく「テレビシリーズや旧劇場版をマンガ化したもの」という位置づけで、アニメ版のキャラクターデザインを担当した貞本義行氏が作者という文脈からも、本来アニメ版が予定していた終わり方を描いたと考えていいだろう。
シンジは眠れるアスカをオカ○にしたりせず、量産機どもに喰われる弐号機を雄々しく救いにいく。
他人の手が自分を傷つけるかもしれないとしても、綾波ともう一度手を繋ぎたい……。
その想いを胸に、真っ赤なLCLの海に溶けたみんなをヒトの形に戻す。地上に降り注ぐ切片は綾波のかけら、エヴァの中にいる母のユイは遠くから見守る、とほのめかさずセリフにして言う。
解釈が入る余地もなく、完璧なピリオドが打たれている。
これが19年前に見たかった美しいエンディング。
だが、この終わり方であれば、『エヴァ』というシリーズそのものも19年前に終わっていただろう。ウジウジ悩んで初号機に引きこもる主人公、「気持ち悪い」と観客に大団円を与えず居心地悪くするアスカ、「エヴァにだけは乗らんといてくださいよ」と白い目を向けるだけで空白の14年を説明しない大人たち……。
この煮えきらなさ、いつまでもお預けを食わされるのが『エヴァ』。
19年前に綺麗なエンディングを避けたアニメ版『新世紀エヴァンゲリオン』は、心をつかまれたファンの人生と一体化して「終わりを拒絶する物語」となったのだ。
貞本版のように終わってほしかった、でも終わらなくてよかった! という思いを抱えて、僕らは完結版(と称している)『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』を観にいくのだろう。
<文・多根清史>
「オトナアニメ」(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』『超ファミコン』(ともに太田出版)など。