『シュトヘル』第1巻
伊藤悠 小学館 637
1921年7月11日、ジェプツンダンバ・ホトクト8世を君主とするモンゴル人民革命政府が樹立。これによりモンゴルは実質的に中華民国から独立した。
そのため今日は、モンゴルでは「革命記念日」とされ、この日から3日間は首都ウランバートルにて国家主催の「ナーダム」(民族の祭典、モンゴル相撲・競馬・弓射が行なわれる)が開催される。
さて、モンゴルといえば、歴史的に有名なのはモンゴル帝国だ。
13世紀初頭、蒙古族の大ハン(テムジン)はモンゴル高原の各部族を糾合し、周辺の金国や西夏へと侵攻し、やがてユーラシア大陸に広大な版図を築いた。
そんな青き狼と白き牝鹿の時代を題材とする作品が、伊藤悠『シュトヘル』だ。仲間の仇討ちのために単身で蒙古族を襲う女戦士「シュトヘル(悪霊)」と、大ハンによる焚書から西夏文字を守ろうとするツォグ族の少年ユルールが、奇妙な縁で結ばれて旅をともにする。
蒙古の大ハンはなぜ執拗に西夏文字を滅ぼそうとするのか。なぜシュトヘルは、現代の高校生と時代を超えて精神が感応するか。幾重もの謎が何層にも折り重なってストーリーが進む。
多層な物語構造や、読者にとってなじみのない世界観を、説明過多にならずスンナリと物語を展開させる手腕は見事。かつて佐藤大輔の『皇国の守護者』のコミカライズ版で見せたスタイリッシュなアクションも健在だ。
モンゴルにゆかりの日、広大な草原の風を本作から感じ取ろう。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。