このマンガがすごい!WEB

一覧へ戻る

『わたしと先生の幻獣診療録』 第1巻 火事屋 【日刊マンガガイド】

2017/06/12


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『わたしと先生の幻獣診療録』

  
watasitosenseinogenjyusinryoroku_s01

『わたしと先生の幻獣診療録』 第1巻
火事屋 マッグガーデン ¥571+税
(2017年5月10日発売)


ファンタジーほど嘘のつけないジャンルはない。
もともと大きな嘘が前提となる空想の産物だけに、そこに小さな嘘が混じるとリアルなものとして構築されなくなってしまう。
裏をかえせば、優れたファンタジーには世界観にも読後感にもまぎれもない本物があるのだ。

火事屋の『わたしと先生の幻獣診療録』は、タイトルにもある幻獣や魔術師たちが存在する世界の物語。
しかし、科学の発達につれて人々はまじないを信じなくなり、幻獣たちもまた消えゆくのを待つのみとなってしまっている。
そのなかにあって、それでも魔術で薬をつくり続けているのが、魔女の母を持つ少女・ツィスカ。
彼女は獣医としてその魔術を使うべく、獣医師の“先生”ことニコのもとで働いている。
あくまで医師である先生は、無愛想でツィスカの行動にどこか否定的。
そんな先生に隠れて、ツィスカは傷を負って動けなくなった竜の仔の治療を密かに続けていたが、竜の仔の容態は悪くなる一方で……。

魔術と幻獣をめぐるファンタジーである本作。
さらにいえば、本作は魔術と幻獣を扱い、そのなかでの人間ドラマを丹念に描いた、リアルな医療ものでもある。
その言葉から先生のスタンスも作品のスタンスもわかるが、魔術を過信するツィスカに先生はいう。
「過去の症例に基づく判断とか経過観察だとか そういうの含めて医療だろ」
「魔術がインチキだとか そういう話じゃないんだ 命を救うのにより確かな方法を求めるのは道理だろ」。

魔術がすべてじゃない。そのため幻獣の外科手術のシーンも描かれていて、そこがリアルでもありファンタジックでもある。
先生自体がファンタジーとリアルをつなぐ存在でもあるが、こんな言葉も印象的だ。

「信じてない奴には効かないし、見えないしわからない…」。

エンターテインメントとしてのファンタジーの受け取り方・受け止め方にも重なる言葉だ。
ただ、本作には間違いなく、信じさせ、聞かせ、見せてわからせるだけのリアルがある。
幻獣のキャラクターと造形も楽しく、その治療の魔術に何か秘密がありそうなツィスカの成長物語としても魅力的。
ディテールにおいてもドラマにおいても――なによりマンガの姿勢において嘘がない。
『わたしと先生の幻獣診療録』はまぎれもない本物だ。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。『暗殺教室』パンフも手掛けています。

単行本情報

  • 『わたしと先生の幻獣診療録』… Amazonで購入

関連するオススメ記事!

アクセスランキング

3月の「このマンガがすごい!」WEBランキング