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『妖しの森の幻夜館』 第1巻 高階良子 【日刊マンガガイド】

2017/12/26


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『妖しの森の幻夜館』



『妖しの森の幻夜館』 第1巻
高階良子 秋田書店 ¥454+税
(2017年11月16日発売)


高階良子ここにありの一作だ。『黒とかげ』『血まみれ観音』『はるかなるレムリアより』『ピアノソナタ殺人事件』など、ミステリーで少女マンガの黎明期からこのジャンルを牽引してきた著者。その最新作となる『妖しの森の幻夜館』は前作『よろず幻夜館』に連なるまた新たな物語で、まさに高階良子ならではの世界観が展開されている。

多重人格者の美弥子は、不思議な森の主・幻夜と出会い、それぞれの人格をトミヤ、美子、弥子という分身として独立させて、4人で便利屋を営むことになる。そんな美弥子の身体にまた新たな人格が入りこんできたのと時を同じくして、ホームレスの女の子が幻夜の森に迷いこんでくる。彼女に隠された境遇とは? 美弥子のなかに聞こえる声とは? そして人の憎しみや悲しみ、辛さや悔しさや怒りに共鳴する森と幻夜の秘密とは……?

運命の渦に飲まれていく少女と、彼女をある意味で巻きこみ、ある意味で導く謎の美青年。その立ち位置は出世作『地獄でメスが光る』、代表作『マジシャン』とも重なる。実態の見えない恐怖や不安に翻弄されて、恐れおののき彷徨う少女という構図が高階作品にはしばしば登場するが、本作もまたにそうしたシーンから物語は幕を開ける。

大人の階段を登っていく少女たちにとって世界のすべては怖いもので、裏を返せば怖いゆえに胸ときめかせて酔えるドラマティックでロマンティックなものでもある──。深読みすれば、著者が描いてきたヒロインと物語の在り方はそうしたもので、恐ろしくもドラマティックでロマンティックであるところが、著者が読者を魅了し続けている点でもある。実際、少女たちの不安につけこむように、または不安をすくって救うように、そこには敵か味方かわからない美青年が、運命的なパートナーとして待っている。

さらにいえば、きれいなだけでもきれいごとだけでもないのが、高階作品だ。前作『よろず幻夜館』でもファンタジクなミステリーの枠組みのなか、主軸として描かれていたのは迷い人たちが抱えている悩み、社会問題や家庭問題で、人間の心の垢や澱や膿。本来、少女ともロマンとも相容れないはずの生臭く、俗っぽいものが物語をかたちづくる。そう考えると、これもまた昔から一貫して著者が描き続けてきているのは、現実で怖いのは人間だということなのだろう。世界はロマンにあふれていて、現実と人間は恐怖に満ち満ちている。その両方を同じ物語観のなかで描きだしていること自体、すごいともなる。

まだまだ明かされていない部分の多い『妖しの森の幻夜館』。しかし森に迷いこんでくる人々が抱える苦悩や葛藤、それぞれの事情は赤裸々に描かれていく。まさにロマンと俗。作者の作品は未見という人はもちろん、今一度、高階良子に溺れたいという往年の読者にこそぜひ読んでほしい。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。

単行本情報

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