『燐寸少女』 鈴木小波
KADOKAWA/角川書店 \580+税
(2014年10月31日発売)
どこからともなく現れるマッチ売りの少女。彼女が差し出すのは、妄想を具現化できる「妄想マッチ」。お代は、寿命1年分。
ある者は「モテたい」と妄想する。またある者は「相手の心の中を覗いてみたい」と妄想する。さて、その結果は……? マッチをめぐる人間の様々な末路を描くオムニバスだ。
一番のキモは「願望を叶える」のではなく、「妄想用」だということだろう。
「妄想は願望の一端。責任も覚悟も必要ございません」
出てくるキャラクターは皆、次々にマッチに火を灯す。「パンツが見たい」「ポイ捨てしたタバコを返してやる」。寿命を使ったマッチにしては、かなり使い方が軽薄。
妄想は、願望よりもはるかに軽い。だからこそ幸せでもあり、想像力が足りなければ容易に転落する。
俯瞰やあおりなど、特異なアングルを多用したこの作品。ガリガリとペンでこすりつけるような線。表紙の通りのレトロな空気。マッチ売りの少女・リンのミステリアスさを引き立て、展開の不安感をあおる。
特に東京タワーを登る少年少女の回は、この描写技術が物語そのものになっているので、ぜひ見てほしい。
後半、深層心理を表出させるろうそく売りのチムが登場。リンと思想をぶつけあうことになる。
人間の心の髄を引っこ抜いてしまう彼女。マンガ『ブラック・ジャック』で患者を安楽死させるドクター・キリコのような存在だ。
「妄想」「願望」「深層心理」。似て非なる3つを、この物語は追求している。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」