このマンガがすごい!WEB

一覧へ戻る

『父とヒゲゴリラと私』第3巻 小池定路 【日刊マンガガイド】

2015/01/20


chichitohigegorilatowatashi_s03

『父とヒゲゴリラと私』第3巻
小池定路 竹書房 \648+税
(2014年12月20日発売)


笑っているはずなのに、なぜか涙が浮かんできていて、泣いているはずなのに、なぜか笑顔になってしまっている。自分でもよくわからないままに、ただ確実に胸は何かの感情でいっぱいになっている、そんな気分。
それをマンガで味わいたいという人には、ぜひ小池定路『父とヒゲゴリラと私』がオススメだ。

本作は、男やもめの父とその弟、そして娘が織りなすアットホームなストーリー4コマ。独身の草原晃二が、会社員で幼稚園児の娘・みちると2人で暮らす兄・聡一のもとにやってくるところから、物語は始まる。
妻・みゆきを交通事故で亡くして、男手ひとつでみちるの面倒を見ていた聡一だったが、無理がたたってダウン。そこでフリーランスのwebデザイナーで自由が利く晃二が、2人と一緒に生活することになったのだ。

でも、しっかりしているのは、ちょっとわがままながらもおしゃまなみちるのほうで、大人2人は情けないところばかり。
聡一は地味で飄々としていて、不器用。晃二は器用貧乏で、みちるが命名することになる「ヒゲゴリラ」そのままのイカつい見ためで損してばかり。そんな3人の共同生活や周囲の人々の物語が、展開を追いながら描かれている。

ただ、『父とヒゲゴリラと私』はコメディではくくりきれない作品だ。
本作のポイントになっているのは喪失。そもそも兄弟が一緒に暮らし始めるのも、聡一が妻を、みちるが母を失ったからで、また兄弟の幼なじみだったみゆきは、晃二も想いを寄せていた相手でもある。3人の生活の描写も、かなりの天然ボケというキャラクターのみゆきの回想も楽しげながら、大切な人を失ってもそれでも前を向いて生きていくということがベースの物語だ。
そんな姿が、聡一のキャラクターさながらに淡々と描かれつつ、晃二のキャラクターさながらにユーモラスに味つけされているところが本作の魅力。それだけに、よけいにベースにあるせつなさが浮かびあがる。

第3巻では、晃二を怖がりながらも距離を縮めているみちる幼稚園の先生・西原と、聡一の部下で聡一とはどこか似た者同士でもあるマイペースなつかさの心の内も丹念に描かれていて、兄弟のまわりでの女性たちの想いも揺れ動く。

楽しいけれどせつなくて、せつないけれどほほ笑ましい。本作がもたらす感情は、いとおしさだ。
キャラクターそれぞれのドラマや生活、その健気さと不器用さと温かさに、読む人はいとおしさを覚えて、それで泣きも笑いもしたくなる。

さまざまな意味でしみる、ストーリー4コマ。4コマだからこその深みも十二分に味わえる作品だ。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。

単行本情報

  • 『父とヒゲゴリラと私』第3巻 Amazonで購入
  • 『父とヒゲゴリラと私』第2巻 Amazonで購入
  • 『父とヒゲゴリラと私』第1巻 Amazonで購入

関連するオススメ記事!

アクセスランキング

3月の「このマンガがすごい!」WEBランキング