『アリスと蔵六』第4巻
今井哲也 徳間書店 \620+税
(2014年10月11日発売)
望んだものを現実に具現化させてしまう能力をもった紗名。彼女を幽閉し、その能力の謎を探っていた研究所から飛び出した紗名を救ったのは、なんの能力も持たない花屋の親父・蔵六だった。
……というのが、1・2巻のあらすじ。
本作の世界には、紗名と同じ「アリスの夢」と呼ばれる能力を持つ人はほかにもいて、能力者どうしのバトルや関係が物語を動かしていく。
紗名の「想像したものを具現化する」という能力に対して、3巻以降に登場する敷島羽鳥(しきしまはとり)の能力は「他人の想像力を無効化する」というもの。紗名は、能力の使いかたが稚拙だったり、その使い道をよくわかっていないだけで、作中でおそらく最強の能力を持っているのだが、羽鳥の能力はその紗名の能力をキャンセルしてしまう。
1・2巻で紗名は「アリスの夢」なる謎の現象が生み出した「人間ならざる者」そのものであることが明かされているが、現在は蔵六とその娘・早苗との、疑似家族的関係を営んでいる。
それに対し、羽鳥はいわゆるお受験ママのもとに育てられ、受験の失敗ののち軽いネグレクトを受けるようになったという過去が描かれる。紗名の友人となる「あさひ」と「よなが」の双子姉妹も崩壊家庭に育った背景があり、「家族のありかた」が本作の重要な要素になっているといえるだろう。
3巻以降は、紗名と双子姉妹のあいだの友情だけではなく、羽鳥とその友人である「あゆ」こと美浦歩の友情も描かれている。
家族のありかたよりむしろ、「他者との関係」全般がどのように構築されまた維持されていくのか、という問題こそ本作で描かれているものだというべきかもしれない。
ところで、紗名と羽鳥そして「あゆ」の3人は、「将来的に親友になる」と作中のナレーションで予告されている。本作には「未来の紗名」が登場し、少女たちが直面する過酷な事態が、いずれ幸福で安らかな未来への到達を保証する。
少女たちに対する暴力の存在がはっきりと描かれ、また彼女たちがどんなに天真爛漫に振るまおうと、どこか不穏な空気が漂う本作において、「未来の紗名」が保証する幸福な未来は非常に重要だろう。
うがった見かたをすれば、本作の作者である今井哲也は、決められた優しい未来に向けて物語を描くことで、作者自身の「想像力」でもって、現実を模した過酷な世界設定をどうやって救済するかという問題に取り組んでいるのだ。
想像力の産物以外の何ものでもないマンガのただなかにおいて、「人間ならざる者」が「他者との関係」をどのように築き、それを維持し、どのように幸福で安らかな未来にたどりつくことができるのだろうか。
なお、表紙カバー裏の絵がとても素敵なので、本作を手にとったかたはぜひカバーをとって見てほしい。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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