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『スケッチブック』第11巻 小箱とたん 【日刊マンガガイド】

2015/06/11


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『スケッチブック』第11巻
小箱とたん マッグガーデン \571+税
(2015年5月9日発売)


連載誌が「きらら」系列ではなくマッグガーデンの少年マンガ誌「月刊コミックブレイド」、というかそもそも連載開始が2002年4月号からと「まんがタイムきらら」創刊直前であることもあり、近年では萌え4コマ論の俎上にあがりにくくなってしまってはいるが、小箱とたん『スケッチブック』は古典にしてジャンルのコアが濃縮された名作――簡潔に事実だけを述べれば、恐るべき傑作である。

概要だけを取り出せば、福岡の高校の美術部を舞台に、内気な1年生・梶原空、同学年の麻生夏海、鳥飼葉月、カナダ出身のケイト、そして9人の先輩らをまじえた、彼/彼女たちのなにげない日常をスケッチするかのような4コマ作品となる。

しかし、2004年から連載開始した蒼樹うめ『ひだまりスケッチ』、2005年から連載開始したきゆづきさとこ『GA 芸術科アートデザインクラス』にさきがけ描かれた、美術部を舞台にした高校の部活ものである本作からは、美術ものや部活ものである必然性は見出しにくい。
美術部室はキャラクターたちの集まる場として存在しているだけで、とりたてて美術ネタが披露されるわけでもなければ、そもそも彼女たちは一緒になって何かをやるような集団でもない。各々が勝手気ままに、猫を愛でたり、虫を解説したり、釣りをしたり、ギターを弾いたり、漫才をしたり、片言で日本の知識を披露したり、買いものでケチったり、何かにおびえたりしているだけだ。

2007年放映のTVアニメ『スケッチブック ~full color's~』で全話脚本を務めた岡田麿里は、本作の登場キャラを「ソリスト」と評したが(『スケッチブック パーフェクトワークブック』より)、事実、メインキャラクターが同じ部活の1年生4人組(金髪少女含む)という、典型的な日常系的フォーマットを敷いているにもかかわらず、そこで前景化されるのは彼/彼女たちのコミュニケーション空間というよりもむしろ、非協調的なディスコミュニケーション空間である。

主人公・空が極度の人見知りで、第1話から第11巻現在まで一度もフキダシで言葉を発しない(セリフは描き文字だけ)ことは象徴的だろう。
彼/彼女たちの思考は自己完結し、各々の色が混じりあうことはない。空たちと比べれば、挿話として頻繁に描かれる、その街の「猫の集団」内の対話のほうがまだ、健全なコミュニケーションを取れている。

しかし、それでもやはり、『スケッチブック』で描かれているのは、美術部の集団であり、そこで成立している独特なコミュニケーションのかたちであるように思う。
『スケッチブック』の面々は、ときおり数人が同じ場所に集まっては、しかし理解や共感が得られるか否かとは無関係に、ソリストとして一人ひとりが気ままに、自分の好きなことをやり通す。
その関係は言うなれば、「猫の集会」のようなものだ。非社会的な集団が営む社会。

だから本作で、猫がやたらとフィーチャーされていることは偶然ではないだろう。
11巻すべてのジャケットのそで(折り返し)には猫の写真が配され、4巻以降のジャケットの裏表紙には常に猫のキャラクターが描かれ、猫の集団を描くショートエピソードが大量にさしはさまれる。
『スケッチブック』が美術部の群像劇をとらえる視線は、猫の集会をスケッチするかのように、ソリストたちが自然と織りなすゆるやかな結びつきを、色鮮やかに切り取っていくのだ。



<文・高瀬司>
批評ZINE「アニメルカ」「マンガルカ」主宰。ほかアニメ・マンガ論を「ユリイカ」などに寄稿。インタビュー企画では「Drawing with Wacom」などを担当。
Twitter:@ill_critique
「アニメルカ」

単行本情報

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