このマンガがすごい!WEB

一覧へ戻る

6月11日は凶悪犯フランク・モリスがアルカトラズ連邦刑務所から脱獄した日 『囚人リク』を読もう! 【きょうのマンガ】

2015/06/11


ShujinRIKU_s01

『囚人リク』第1巻
瀬口忍 秋田書店 \419+税


難攻不落。
20世紀アメリカで最もこの言葉がふさわしい場所は、城や砦ではなく牢獄だった。
すなわち、“ザ・ロック”ことアルカトラズ連邦刑務所である。

サンフランシスコ湾に浮かぶ島が、18~19世紀にかけて灯台や軍事収容所として利用されたのち、1934年に連邦刑務所となったアルカトラズ。
海に囲まれた立地や厳しい監視体制で、囚人が脱獄を試みてもあえなく捕まるか、または射殺されるばかり。閉鎖されて半世紀以上経つが、今なお警備厳重な刑務所の引き合いにされ、様々なフィクションの題材にもなっている。

そして1962年のきょう、6月11日は、そんなアルカトラズから数少ない脱獄の成功者が現れた日である。
名はフランク・リー・モリス。囚人番号AZ1441。1960年にアルカトラズへ送られた麻薬・強盗犯だ。

浮き袋でいかだを製作し、独房から抜け出す穴を掘った彼は、屑と粘土から作った身代わり人形をベッドに残し、2人の仲間とともに夜の闇深い海へ姿を消した。湾内で溺れ死んだと当局は見解を示したが、死体が見つかっておらず、そのことが想像を刺激する。
この脱出劇は、映画ファンなら『アルカトラズからの脱出』でおなじみ。クリント・イーストウッド演じる主人公のモデルがモリスである。

さて、マンガでいま特にホットな刑務所脱獄ものといえば、なんといっても『囚人リク』だろう。

隕石で東京が壊滅し、貧富の差が激しくなった近未来。
悪逆な権力者に育ての親を殺され、その罪を着せられた無実の少年囚が、国内屈指の厳重な刑務所で生き抜き、脱獄に挑む。
たくましい巨躯の囚人たちに対し、主人公・リクはあまりに小柄で非力。そのぶんかえって生きることをあきらめない強い精神がきわだち、周囲の囚人仲間と読者の胸を打つ。
特に房のリーダー・レノマが当初は荒くれた暴君として立ちはだかっていたのが、衝突を経てリクを認め、義兄弟の契りを交わすまでになる変化が、本作を通して読む時の醍醐味だ。リクの心の強さと照らし合う肉体的に屈強なレノマの存在が、人間ドラマに太い背骨を通している。

2015年6月現在、22巻まで刊行された単行本では脱獄の実行編が佳境を迎え、危機の連続で手に汗握る状況になっている。
ふりかえれば、リクや仲間の動機づけ、刑務所の下調べ、計画立案、外部との連携、予行演習……と、準備段階に約20巻もかけているわけで、難攻不落な刑務所からの脱獄に必要なこつこつとした積み上げを、マンガの構成そのものが体現している。

フランク・モリスも、脱獄の準備に2年間をたっぷり費やした。
善悪はともかく、真の大事をなしとげるには小さく地道な手間にへこたれない根性が必要、という教訓がある。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

  • 『囚人リク』第1巻 Amazonで購入
  • 『囚人リク』第20巻 Amazonで購入
  • 『囚人リク』第22巻 Amazonで購入

関連するオススメ記事!

アクセスランキング

3月の「このマンガがすごい!」WEBランキング