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『僕たちがやりました』第1巻 金城宗幸(作) 荒木光(画) 【日刊マンガガイド】

2015/10/03


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは『僕たちがやりました』


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『僕たちがやりました』第1巻
金城宗幸(作) 荒木光(画) 講談社 ¥565+税
(2015年9月4日発売)


絵も、ストーリーも、「ああ、俺、今、『ヤンマガ』読んでるなあ……」と強く感じさせられるマンガがある。『工業哀歌バレーボーイズ』とか、『アゴなしゲンとオレ物語』とか、『ナニワトモアレ』とか……ノン・エリートたちが生きる世界を、無闇に見下すでなく、過剰に持ち上げるでなく、どこか冷めた目線で巧みに切り取った、一連の作品群。これは他誌ではなかなか味わえない。

『ヤンキー塾へ行く』の荒木光と、『神様の言うとおり』の金城宗幸がコンビを組んだ本作も、その系譜に連なる作品である。

「そこそこ」な生徒ばかりが集った、どこをとっても「そこそこ」の凡下(ぼけ)高等学校と、不良の巣窟である矢波(やば)高等学校は、道路1本を挟んだおとなりさん。凡下高に通う生徒たちは、矢波高のワルどもに目をつけられないよう、サバンナの草食動物のように、身を潜めて生活している。主人公のトビオは、ヘラヘラと「そこそこ」な幸せを享受して生きることを願う、凡下高の生徒のなかでも、ひときわボンクラな存在。2年前に卒業した凡下高OBで、大金持ちな地主の息子であるセンパイを、仲間たちと一緒にちょろくおだてて転がし、伸びきったゴムのようなゆるゆるな高校生活を送っていた。

しかし、仲間のマルが、浅はかな行動で矢波高のワルに目をつけられたことで、彼らを守る薄ぼんやりとした日常の膜に、裂け目が生じる。さらに、マルを傷めつけたワルどもにやり返すためトビオたちが仕掛けたイタズラが、裂け目をより大きく、取り返しのつかないサイズへと押し広げていく……。

社会の低層を生きる少年たちの、生々しさを感じる描写。
それが積み重なったはてに、ドカンと逸脱する瞬間の、なんともいえない禍々しさ。まるで他人事のように思えるいっぽうで、頭のどこかに「思春期の自分も一歩間違っていたら……」と湧き上がる気持ちもある。
その居心地の悪さ、現実の足場が微かに揺らぐような感覚が、たまらない。

少年たちの明日なき迷走がどこへたどり着くのか。ぜひ、注目していただきたい。



<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei

単行本情報

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