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『おしげりなんし 篭鳥探偵・芙蓉の夜伽噺』第3巻 加藤実秋(作) 丸山朝ヲ(画) わたり(構成) 【日刊マンガガイド】

2015/11/17


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『おしげりなんし 篭鳥探偵・芙蓉の夜伽噺』


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『おしげりなんし 篭鳥探偵・芙蓉の夜伽噺』第3巻
加藤実秋(作) 丸山朝ヲ(画) わたり(構成) スクウェア・エニックス ¥571+税
(2015年10月24日発売)


闇の夜は 吉原ばかり 月夜哉

これは江戸時代の俳人・宝井其角の句である。この句は素直に読めば、月の出ていない夜、遊郭の吉原だけが満月のように明るいと取れるが、「闇の夜は 吉原ばかり」で切ると、江戸の町が明るく月に照らされるなか、吉原だけが煩悩の闇に沈む、とまったく違った光景になるのだ――などと、えらそうに語っているが、これらはみんな泡坂妻夫の短編「椛山訪雪図」(『煙の殺意』所収)に書いてあることなのだ。

さて、本作『おしげりなんし 篭鳥探偵・芙蓉の夜伽噺』は、その吉原を舞台にした時代ミステリである。
コミック化もされた『インディゴの夜』シリーズなどを生みだしたミステリ作家・加藤実秋が原作で、作画は『月輪に斬り咲く』『円卓の姫士!』などの丸山朝ヲ(旧ペンネーム・丸山トモヲ)が手掛けている(さらに構成担当として、わたりが参加)。

遊郭「開化楼」の芙蓉は登楼した客とは床入れせず、お客の厄介事を解決する花魁として有名であった(それでも「開化楼」で一番の売れっ妓である)。
芙蓉は花魁ゆえに店から出ることができない。篭の鳥である芙蓉のかわりに手がかりを集めるのは「開化楼」の下働きの少年・幾太郎である。

このように自分は現場に出かけず、ほかの人から情報を聞いて事件を推理し、解決する名探偵のことをミステリの世界では「安楽椅子探偵」と呼ぶが、新たな安楽椅子探偵がまたひとり誕生したわけである。

人気歌舞伎役者が、芝居の最中に舞台の池に入って死亡した。池の水に毒が入っていたためだが、昼公演でも、直前の下稽古(リハーサル)でも水に異常はなかった。
だれが、いつ池に毒を仕込んだのか……といった不可解な謎を芙蓉は解きほぐしていく。

それを助けるのが幾太郎の鋭い観察眼と、見たことを的確に描きのこす画力である。
幾太郎は、富裕な商家で育ったが、実家が「鬼神党」なる盗賊団に襲われ、天涯孤独の身となった。そして、この盗賊団は芙蓉にも関わりがありそうで、芙蓉は一つひとつの事件の謎を解きながら、「鬼神党」という物語全体を貫く大きな謎にも迫っていくのだ。

ちなみに、冒頭の「闇の夜は 吉原ばかり 月夜哉」については、吉原の夜の明るさを素直に褒めたというのが定説である。
もちろん、「椛山訪雪図」で書かれた解釈も誤りというわけでもなく「こうした多様性にこそ解釈の冒険がある」のだ――などと、偉そうに語っているが、これらはみんな北村薫の短編「闇の吉原」(『中野のお父さん』所収)に書いてあることなのだ。

今回の第3巻で『おしげりなんし』は完結し、芙蓉や幾太郎の闇は払われた。
この機会に手にとって、明るい吉原を楽しんでほしい。



<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。『本格ミステリベスト10』(原書房)にてミステリコミックの年間レビューを担当。最近では「名探偵コナンMOOK 探偵少女」(小学館)にコラムを執筆。

単行本情報

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