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『イノサン Rouge』第1巻 坂本眞一 【日刊マンガガイド】

2015/12/02


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『イノサン Rouge』


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『イノサン Rouge』第1巻
坂本眞一 集英社 ¥514+税
(2015年10月19日発売)


死刑執行人の一族として生まれながら、無垢な瞳で激動の時代を見すえたサンソン家・長兄のシャルル-アンリと妹のマリー-ジョセフ。
過酷な運命と対峙する兄妹を軸に描かれた歴史大河『イノサン』が、「ヤングジャンプ」から「グランドジャンプ」に移籍し、いよいよフランス革命編に突入。
己の道をまっとうしようという熱き思い、為政者に対する咆哮、流されたおびただしい血……その熱量を象徴するかのように、タイトルも『イノサン Rouge』と改められた。

物語は、一族の家長としてパリにその名をとどろかせるシャルルが処刑を執り行うシーンから始まる。
その堂々たる姿に、人に蔑まれながら己の手を血に染めねばならない宿命を嘆いていた頃の繊細なシャルルの面影はない。前章にあたる『イノサン』9巻ぶんをかけてじっくり描かれたシャルルの内面の成長が、ここに結実したかのようだ。

一方、ベルサイユで処刑職を得たマリーもじつに生き生きと描かれている。
初恋の男・アランを殺した傲慢な貴族を陥れ、刑に処す一連の流れなど、妖しさとあぶなっかしさを同居させた魅力的なシーンがふんだんに用意されており、兄のシャルルを喰ってしまいそうな勢い。
国王に忠実なシャルルとしては、一度の処刑で民衆の心をつかみ、荒ぶらせるマリーの存在がおもしろくないご様子。以前よりあった兄妹のわだかまりが、思想上の確執にも及び、ここにきてくっきりと対立構造を浮かびあがらせているのだ。それが今後の展開にどう絡んでくるのかも見逃せない。

独自の美学で埋めつくされた1コマ1コマもさらに密度を増している。高く結いあげられた髪の流れ、きらびやかな調度で満たされた宮殿、繊細なレースや複雑な図柄の刺繍の美しさはため息もの。
しかし、美しい描線で紡ぎだされるのは、この時代の貴族が身につけていたものだけではない。凄惨な処刑シーンにおける内臓や飛び散る血潮も等しく精緻に描かれており、そんなシーンも美しく気品をたたえているのはさすがの一言。

本巻は革命前夜のパリで起きた、かの有名な首飾り事件の始まりを予感させるシーンで終わる。
それぞれの野望渦巻くなか、物語はたぎりにたぎっている。



<文・山脇麻生>
ライター&編集者。「朝日新聞」「SPA!」などにコミック評を寄稿。
Twitter:@yamamao

単行本情報

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