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『有害都市』下巻 筒井哲也 【日刊マンガガイド】

2016/01/20


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『有害都市』


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『有害都市』下巻
筒井哲也 集英社 ¥600+税
(2015年12月18日発売)


生田斗真主演の映画版も好評を博した『予告犯』の著者・筒井哲也が、“表現の自由”について世に問う怪作の完結編。

筒井版『アウトブレイク』、もしくは『ウォーキング・デッド』的な世界観を期待してジャケ買いしてしまった読者は、さぞや面食らったことだろう。
上巻の序盤は実際にホラーテイストの作品が進行するが、ほどなくそれは主人公の漫画家・日比野幹雄が描く新連載用の作品『ダーク・ウォーカー』のプロットだということが判明する。

狂犬病のように人間が人間の屍肉を喰らいたくなる“食屍病”が広がっていくスリリングなこの作品を青年誌「ヤングジャック」の担当編集者も気に入るが、このままでは雑誌が回収になる危険もあるので、根本の設定を変えてほしいと注文が入る。
ここから日比野は自分が本当に描きたい作品と表現規制の狭間で揺れに揺れることになる。

本編の舞台はオリンピックを目前に控えた日本の首都。
筒井が描く4年後の東京は、わいせつなモノ、いかがわしいモノを徹底的に排除する風潮が広がっており、ホラー映画のDVDですら、顔写真付きの身分証明書がないと買えない始末。
公園ではヒステリックな中年女性が東京都浄化運動の一環と称して小便小僧の撤去を進めている。

もちろんフィクションであるし、多分にデフォルメされてはいるが、この近未来像はまったくの冗談ではない。
そもそも筒井自身が、2009年に『マンホール』で長崎県の「青少年保護育成条例に基づく有害図書指定」を受けた経験の持ち主なのだ。

下巻では『ダーク・ウォーカー』が有害図書指定を受けた日比野が、有識者会議に召喚されることになる。
おぞましい吊るし上げの先に何があるのか――?

表現に関わる人たちはもちろん、その表現を楽しみにしている人たち、つまりこの「このマンガがすごい!WEB」にアクセスしたアナタが今読むべき衝撃作だ。



<文・奈良崎コロスケ>
マンガと映画とギャンブルの3本立てライター。中野ブロードウェイの真横に在住し「まんだらけ」と「明屋書店」と「タコシェ」を書庫がわりにしている。著書に『ミミスマ―隣の会話に耳をすませば』(宝島社)『ローカル路線バス乗り継ぎの旅 THE MOVIE』(2月13日公開)のパンフレットに参加しております。

単行本情報

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