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『死にたいボクと生きるキミ』 第1巻 パカチャン 【日刊マンガガイド】

2016/11/08


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『死にたいボクと生きるキミ』


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『死にたいボクと生きるキミ』 第1巻
パカチャン マッグガーデン ¥571+税
(2016年10月14日発売)


医療が発達した未来、寿命が正確に予言されるようになった世界。
とある高校を主な舞台に、幼なじみや恋人の余命10日間をともに過ごすことになった人々を描く作品が、この『死にたいボクと生きるキミ』だ。

たとえば、いつもいっしょにいるちょっとギャルっぽい「ゆか」と、非モテで引っ込み思案な腐女子「スズキ」。
「観たら面白いかもしれない」と映画に誘うゆかに対して、「どうせどっちかが不治の病になってどっちかが泣きながら見送るパターンでしょ?」といいはなつスズキ。
これ、本作そのものに対する作中人物からの自己言及的なセリフで、実際のところほかのエピソードでも「安易な泣き」が描かれないのがこの作品のよいところ。

ゆかとスズキの2人も、「ゆき」の確定された死期が近づいてもバタバタすることはない(というか、ゆかの命日まであと4日というタイミングで上記の発言が出てくる)。
映画のあとナンパされたゆきとスズキはこんなやり取りをする。

「アンタ私がいなくてもああいうのちゃんと断れる?」
「ゆかちゃんじゃなきゃそもそも声かけられないもん…」

こんな感じで、スズキはどうも自己評価が低い。それに対して「ゆか」は「私はスズキじゃないからアンタの人生に責任なんてもてないよ」と優しく突き放す。
この発言、マンガのなかだけじゃなくて、思春期から大人になる過程で多くの人がいろんな表現で現実にいわれてきたことなんじゃないだろうか。

「寿命が正確にわかる」という虚構の設定によって、少年少女が大人になる時に経験するせつなさを本作は描いている。
ひとは必ずしも大人にならなければいけないわけではない。それでも無理やりに大人にさせられてしまうことがあるだろう。それこそ、親しいだれかの死とか、理不尽にしか思えない別離によって。
そういう経験をした人には、本作の淡々としたテンションはとても誠実に感じられると思う。



<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
Twitter:@nnnnnnnnnnn
Twitter:@n11books

単行本情報

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