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【インタビュー】山口貴由『衛府の七忍』読者にウケてほしくて描いている! ――著者の「パねぇ」エンターテインメント精神に迫る

2018/03/19


「時代劇」への固定概念をくつがえす、衝撃の「テヘペロ」

――時代設定として、戦国時代と江戸時代のはざまのような時期をチョイスされたのはなぜなのでしょうか?

山口  ひとつは日本の中世のような出来事はずっと描かれてきたもので、それならばどんな人にも受け入れられやすいだろうなというのがありました。徳川家康や宮本武蔵といった、だれでも知ってる“スター”も出揃ってますからね。

第4巻から登場する宮本武蔵。山口先生の描く武蔵は、まさに「猛虎」!(しかし武将・島津家久に「さっしー」と呼ばれる)

――『シグルイ』はもちろん、ほかにまったく時代設定は違うんですけど『蛮勇引力』なども含めると、山口先生の作品って徳川家の描かれ方が独特ですよね。

山口  何か徳川に怨みでもあるのかって思われそうですけど、そんなことはまったくないですからね(一同笑)。もちろん現実では子孫の方たちもおられますし、ほとんどは立派な方々だとは思うんですけど、そういった家康をはじめとする方の偉業を著した書物はたくさん存在するので、それとは違う角度から描いてみたいという……ただそれだけなんです(笑)。それに、家康は身分制度をつくって世を安定させたわけですけど、どうしてもそういった道から外れちゃった人たちに目が向いちゃうところがあって。
特にこの時代は、まだ人身売買が行われていたり、現代とは“命の価値観”がまったく違うので、今の常識からすれば驚くことばかりなんですよね。そういうところを積極的に描きたいと思っているので、作品としてはバケモノが出てきたりして時代考証もムチャクチャのように見えるかもしれませんけど、農民たち大衆の生活描写などはわりとリアリティ重視でやってるつもりなんです。

――いわれてみるとそうですね。そこにポンと「テヘペロでやんす」や「マジすか」などの若者言葉が混じるのが、独特の作風となっている気もするのですが。

山口  単にバカっぽいテイストが自分の持ち味なのかなというのもあってやってる部分もあるんですけど、人によっては「時代劇」ってだけでダセェみたいな、そんな先入観を持ってることもあるので、そのハードルを少しでもなくしたいという考えもあるんです。当時の民衆の会話を今の言葉に置き換えると、ああいう「パねぇ」みたいな感じだと思うし、それで読み手がキャラクターを身近に感じてくれたらいいなって。

読者の間で話題になった「テヘペロでやんす」のシーン。ページ内ではとても小さいコマながらも、読者の心を打った(いろんな意味で)。

――たしかに、一気に距離感は縮まりますね。それにしても「チェスト関ヶ原」などもそうなんですけど、言葉のチョイスが絶妙だと思います。その語感と全体のテイストにギャップがあるのが、ひとつは「笑い」につながる要素なのかなと。

山口  ただ「チェスト関ヶ原」は、もともとウケを狙ってたわけではないんですよ(笑)。言葉自体は「チェスト関ヶ原」って実際に存在するものですからね。まぁ、本来は「関ヶ原で戦に負けたことを忘れるな」って意味のところを「“ぶち殺せ”の意である」ってことにしちゃいましたけど。それがそんなにウケるとは思ってなくて、あとでネット上などでの反応を教えてもらって知ったんですが、それで有名になった1コマの武市千加太郎はあっさり死んじゃってますからね(笑)。逆に狙ったところは意外と響かなかったりもして、テレビでお笑い芸人とか見ていても「そういうものなのかな」って思ったりもするんですけど。

こちらも読者の間で話題となったセリフ「チェスト関ヶ原」。その言葉の意味は恐ろしくも、キャッチーでつい、いいたくなってしまう(?)セリフだ。


石ノ森章太郎原作の特撮ドラマが「怨身忍者」のモチーフ

――あと、何よりキモの「怨身忍者」についても聞いておきたいのですが。まず、てっきり怨身忍者は全員が徳川の抵抗勢力だと思っていたら、そういうわけでもないんですよね。

山口  そこは徳川とその反体制派みたいなところで、それぞれに正義がありますからね。その「異なる正義」のぶつかりあいになっていくと思います。そもそもまだ「七忍」が出揃ってないんですけど、何にしても暗黒大魔王と戦うような単純な構図では描きたくないんです。そこは現代にも通じることですけど、どちらか一方だけが正しいということはありえませんから。

キーパーソンのひとりである徳川家康。超巨大な甲冑で戦いに備える。そのスケールは第5巻で明らかに……。

――ですね。それと、どういったところからアイデアが固まっていったのかもお聞かせください。

山口  ネーミングはもう、聞かなくても答えはわかってるでしょ?(一同笑) 三浦建太郎さんにも「これ『変身忍者嵐』[注1]だよね」っていわれましたけど、言葉の響きでは「変身忍者」と一文字しか違わないですからね(笑)。似てるのは名前だけで、中身は自分で考えてますけど。

『変身忍者嵐』は70年代に放送された特撮ドラマ。原作は石ノ森章太郎が手がけた。

――それはもちろんそうですよね(笑)。『覚悟のススメ』の強化外骨格に通じるところもありますし。

山口  それに忍術的な要素を加味しつつ、時代を考えて鉄などの金属よりも生物的なパーツを増やしてみたり。アイデアとしてはそんな感じですけど。

――ちなみになんですが、マンガの『変身忍者嵐』はお読みになられていますか? 主なところでは石ノ森章太郎版や石川賢版がありますが、わりとそのあたりの作家は山口先生のルーツ的なところだったりもするのかな……と勝手に想像していたんですけど。

山口  当然、読ませてはいただいています。特に石ノ森先生のほうのは終盤にUFOが出てきたりして、なかなか衝撃的な展開でしたね。ただルーツ的なところでいうと、じつはそれほどマンガを貪るように読んでいたわけではなくて、むしろ実写版の『嵐』のウラ番組だった『ウルトラマンA』のほうが影響が強くて。自分にとってもっとも大きなルーツは、マンガよりも「怪獣」なんです。

――マジすか!(素で驚嘆)

取材・構成:大黒秀一

■次回予告

次回のインタビューでは、最後に判明した山口先生のルーツ「怪獣」など、さらにお話をうかがい、山口貴由ワールドの魅力に迫っていきます!
インタビュー第2弾は3月26日(月)公開予定です! お楽しみに!


  • 注1『変身忍者嵐』 1972年~1973年に放送された特撮ドラマ。日本を征服せんとする謎の怪人と忍者集団があらわれ、化身忍者の秘法によって肉体改造された主人公が変身忍者嵐に化身し、仲間の伊賀忍者たちとともに敵に立ち向かう物語。原作は石ノ森章太郎(当時は石森章太郎)。

単行本情報

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