話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『衛府の七忍』
『衛府の七忍』第1巻
山口貴由 秋田書店 ¥562+税
(2015年10月20日発売)
笑える若先生が帰ってきた!
「チャンピオンRED」での新連載を読んだとき、思わず漏れた言葉だ。
若先生とはファンが山口貴由先生を敬意をこめて呼ぶ名称。魂を揺さぶられた読者はひとつの作品を超えて、作家本人の生涯を追いかけてゆく。
負けることが恥ではない、戦わぬことが恥なのだ! 独特でアツいセリフまわし、グロいが鮮烈な『覚悟のススメ』にハマって以来、過去の『平成武装正義団』までさかのぼって読みかえしたりもした。『悟空道』のマイペースにもほどがある道のりも、振りかえれば楽しかった。
そして『シグルイ』は初の原作ありき(小説『駿河城御前試合』)ゆえに、余剰が極限まで斬りおとされ、刀のように研ぎすまされた。
殺すには惜しいキャラクターたちの死が降り積もり、藤木VS伊良子の対決に結晶する無残にして美しい物語だ。
その重さを背負ったまま始まった前作『エクゾスカル零』。たしかに凡人の理解を拒むストイックなドラマも、若先生の魅力のひとつ。だが、「ひとつ」でしかない。究極の愛って何? それは2つがひとつになること……と男子を丸呑みする破夢子に噴き出す、生と死の間にある「笑い」に僕らは強く惹かれていたはず。
「心はけして逃げぬ…逃げぬが身体がくそびびりまくっておるのじゃ」
本作のアタマを飾るこのセリフこそ、笑える若先生のカムバック宣言。
曖昧になった虎眼先生が鯉をむさぼり食ったり、暗がりでちゅぱちゅぱやってた山崎九郎右衛門に感じた「怖がったらいいのか笑ったらいいのか」のセンスが再び!