時は元和元年、大阪城の落城後。
豊臣家を滅ぼした徳川家康は治国平天下大君となり、豊臣の残党を容赦なく粛清。さらに“覇府の印”なる手形を所持したものに残党狩りが許され、武器を持った民兵らは嬉々として残虐行為を……という史実がベースだ。
その一方で、覇府の印籠にはまつろわぬ民を服従させる呪詛があるという架空が入り混じる、いつもの山口ワールドでもある。
獣にくそびびりまくっていたヒロインの名は伊織。そのピンチを救った少年は葉隠谷のカクゴ。
2人は前作『エクゾスカル零』(と『覚悟のススメ』)のキャラクターたちと同じ名前だ。そして伊織を護衛する貝蔵も『蛮勇引力』で張り型を武器に戦っていたオッチャン。
そう、このマンガはいわゆるスターシステム。
手塚治虫先生がよくやってた「自作のキャラクターを俳優のように扱い、別の人格と役柄を与えて活躍させる」方式だ。
カクゴに喜怒哀楽の表情があることが『エクゾスカル零』とは違うというサイン。
葉隠谷にかくまった伊織にまわりから丸見えの湯船を用意してやり「武士の娘がどんな裸をしてるのか見てみたいのさ」とぬけぬけと言う。このゆるい感じ、懐かしいなあ!
カクゴが特殊な鎧をまとった怨身忍者「零鬼」に変身するのは第3話と遅め。
でも、「民兵の金玉が縮み上がった。捕食者に子種を取られまいとする防衛本能だ」というナレーションに「孫の顔を拝ませぬぞ」というカクゴ。聞こえてたのかナレーション。
そんなやりとりに、若先生が笑いのカンを取り戻してきた感じがあってじんわりうれしい。
滅ぼされた豊臣の仇討ちかというと、そうでもない。
豊臣は豊臣で、大阪城が焼け落ちる直前に、女中に片っ端から子種を植えつける暴虐をしている。
そこに義理はないが、覇府の都にのさばってる家康が気に食わないから大鉈を喰らわしにいく。
巨大なラスボス(ロボットのような巨具足を持ってるので物理的にも)がいてゴールがはっきりしてるのはホッとする!
そんな3話までの主人公カクゴは“第一の”怨身忍者。
4話からは動地憐が登場し、『蛮勇引力』の銀狐と夫婦になって権力との激闘をスタート。
「本当にちんこでけえヤツぁ道具持たねェ」と心に名セリフを刻みつつ、敵が『サイバー桃太郎』由来の桃太郎と来てるから、スターシステムのおもちゃ箱から何が飛びだすか期待はふくらむばかり。
『衛府の七忍』のタイトルからは、カクゴや燐といった『エクゾスカル零』のメインキャラ7人が怨身忍者となり、それぞれ3話完結のドラマが描かれたあとに、前作で構想があったという戦隊ものになる推測ができる。
が、今回の新連載まで準備期間があまりなかったので、たぶん走りながら今後の展開を考えてるはず!
若先生の予測不能性も、ファンにとってはごちそうなのだ。
『衛府の七忍』著者の山口貴由先生から、コメントをいただきました!
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』『超ファミコン』(ともに太田出版)など。