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【インタビュー】小西明日翔『春の呪い』 【「このマンガがすごい!2017」オンナ編2位】死んだ妹に囚われた姉と、妹の婚約者の「2人だけの世界」――著者が描きたかったものとは

2017/01/27


人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。

今回お話をうかがったのは、小西明日翔先生!

発表されたばかりの『このマンガがすごい!2017』で、「オンナ編」第2位にランクインした『春の呪い』。
死んだ最愛の妹の痕跡をたどるように、主人公・夏美は、憎みさえした妹の婚約者・冬吾と逢瀬を重ねる……。 亡き妹に囚われた夏美と、彼女へ特別な感情を持つ冬吾、そして死んだ妹・春、この3人の想いが複雑に交錯し物語がドラマティックに展開する本作。この『春の呪い』でデビューを果たした小西明日翔先生は、今まさに、多くの読者から注目を集めています!

前回は、読者の胸をえぐる愛憎ドラマが展開する本作制作の裏にあった、小西先生自身の実体験……が明かされました!

<インタビュー第1弾>
【インタビュー】小西明日翔『春の呪い』【「このマンガがすごい!2017」オンナ編2位】死んだ妹、妹の婚約者、妹を愛する姉―― 愛憎うずまく三角関係の裏にあった、著者の過去

今回のインタビューでは、さらに小西明日翔先生からマンガづくりへの想いや、意外なルーツについて教えていただきました。先生のマンガの師が、『AKIRA』でおなじみの大友克洋先生って、なぜ!? さらには今後の新作についても大公開!?

著者:小西明日翔

個人で運営していた創作サイト(現在は閉鎖)で小説を発表したのち、pixiv、twitterに掲載したマンガやイラストが、話題を呼ぶ。
2015年11月から「月刊コミックゼロサム」(一迅社)にて『春の呪い』を連載スタートし、商業連載デビューを果たした。
本作は2016年末に完結。
最終巻となる第2巻は現在、好評発売中。

喪服、遺骨、呪い……衝撃的なタイトルと表紙に「迷いはなかった」――その意図とは

――1巻が出た時、何より驚いたのは表紙のインパクトです。夏美と冬吾はそっぽを向いているし、喪服だし、遺骨まで描かれてるし。書店でただならぬ雰囲気を放っていました。

キャラクターのビジュアルとタイトルのインパクトに「やられた!」第1巻表紙。物語のメッセージがダイレクトに伝わってくる。

キャラクターのビジュアルとタイトルのインパクトに「やられた!」第1巻表紙。物語のメッセージがダイレクトに伝わってくる。

小西 「担当さんが喪服でもいいんじゃないか」といってくださったので……いくつかラフを出したなかで、遺骨を持っているパターンに決まりました。

――マンガ史上ない表紙ですよね。死をここまで具体的に押し出しているというのは。

小西 遺骨を抱かせてしまったので、数珠も描かないと、と。描いている時はそんなに暗い絵だと思ってなかったですよ。じつは1話のトビラを表紙にしようかという案もあったんですが、さすがに表紙に血を描くのはどうかなと……。

表紙に負けず強烈なインパクトの第1話のトビラ。2人の人間性・関係性がかいま見える。

表紙に負けず強烈なインパクトの第1話のトビラ。2人の人間性・関係性がかいま見える。

――血よりもこっちのほうが衝撃的かもしれませんよ。血はイメージ的な表現と受け取れますが、喪服に遺骨は直接的。そして、この表紙と相まってタイトルがまた強烈に感じました。

担当 1巻が出た時に書店さんから「重すぎる」という声をいただいたりもしたのですが、マイルドな方向に振ってはこの作品の魅力が消えてしまうと思ったので迷いはなかったですね。

小西 連載が決まった時から、このタイトルしかないと思っていました。インパクトだけじゃなく、タイトルの意味を読者に感じてほしいという想いから、1話のラストで夏美に「この際呪いでもいい」といわせています。それからラストにもきちんとこのタイトルへの答えを用意しておこうと。

頭から離れない春の最後の言葉……。そして物語は幕を開ける。

頭から離れない春の最後の言葉……。そして物語は幕を開ける。

――もとの小説は未完だったそうですが、ラストの構想はあったのでしょうか。

小西 小説では1巻で夏美と冬吾がいったん別れるあたりまでしか書いていませんが、結末は2パターン考えてありました。でも、結局はどちらも採用しなかったんです。

――もとの2パターンというのが気になります!

小西 おのずとマンガの結末がバレちゃうので詳しくはいえませんが……当初の構想はかなり突き放すような終わり方でしたね。でも、それは今となっては、逃げに思えてしまって。何度も読み返したくなるような物語にすることを意識して、新しく考えました。


頭に浮かぶ映像イメージを全力で伝える「熱意」

――物語を小説で書くのと、マンガで描くのと両方できる方はなかなかいないと思うのですが、どっちがやりやすいですか?

小西 小説を書いている時は、これを絵で描けたらラクなのにと思うことがよくあったんですよ。たとえばキャラの感情ですね。マンガなら絵でどういうニュアンスの感情か、セリフやモノローグなしでも一発で表現しやすい。構図で伝えることもできますし。文章で、自分のイメージしてる絵面を読者に伝えようと思うと、仕草を逐一説明したり、まどろっこしくなりすぎてしまうんですよね。

キャラクターの表情や仕草から、内に秘めた感情を描き出す。この夏美と冬吾の一瞬の表情で、本心がむき出しに。

キャラクターの表情や仕草から、内に秘めた感情を描き出す。この夏美と冬吾の一瞬の表情で、本心がむき出しに。

――小説にしろマンガにしろ、まず頭に映像が浮かぶタイプなんですね。

小西 そうかもしれません。背景なんかは文章のほうがラクなこともありますね。文章だったら一行の説明ですむのに、思い描く風景を絵で描くのに3日かかったり……どっちもどっちですね(笑)。マンガを描きはじめた時、マンガのなかでは「ふつうの表情」を描くことって少ないんだと気づきました。イラストだけを描く分には立ち絵のかわいい顔を描ければよかったけど、マンガはそれじゃ成り立たないと気づいて、表情のレパートリーを増やすことに必死になりました。

――新人漫画家の場合、「キメ顔ばっかり」になってしまうのは、よく指摘される問題点です。小西先生の場合、画力ですべて描ききるタイプとは思われないのですが、キャラクターの表情で伝える力が非常に大きいと感じます。担当さんは、小西先生を漫画家として見出した時、どこに魅力を感じましたか?

担当 最初にマンガを拝見した時、「作者の考えていることが100%伝わってくる作品だな」と思いました。キャラクターの性格や、登場人物たちの関係など……マンガでいちばん大事なのは「いかに伝えるか」です。小西先生はキャラクターの表情以外にも、服や持ち物などにも神経を行きわたらせて、全力で伝えている。夏美の部屋には感動したんですよ!

――たとえばどこですか?

担当 通販のカタログが置いてあったり、引き出しを開けると、なわとびが入ってたりするんですよ!

部屋の片隅に置かれた「MISSEN」の雑誌、そしてアクティブな夏美らしい(?)なわとび!

部屋の片隅に置かれた「MISSEN」の雑誌、そしてアクティブな夏美らしい(?)なわとび!

――このシリアスなシーンに!! なるほど、夏美ってこういう子なんだと伝わってきますね。

担当 こういうところで改めて、夏美はホントに愛せるキャラクターだなと思ってしまうんです。

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