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【インタビュー】小西明日翔『春の呪い』 【「このマンガがすごい!2017」オンナ編2位】死んだ妹に囚われた姉と、妹の婚約者の「2人だけの世界」――著者が描きたかったものとは

2017/01/27


描きたい軸は“その2人”だけにしか共有できない世界

――小西先生はどんなマンガを読んで育ったのでしょうか。

小西 「ジャンプ」に載っているようなメジャーな作品はひととおり読んできましたが、人並み程度じゃないでしょうか。学生時代、お金がなくてマンガを泣く泣く手放した時期があったんですけど、これだけは売れないと思ったのが『AKIRA』と『ドラえもん』。マンガを描こうと思い立った時に、手元にあったのがこの2作だけで(笑)。これを見ながらノートにコマ割りを描き移して、どういうふうに視線を動かしてるのかといったマンガの描き方を勉強しました。ただし、そのせいで最初、断ち切りを知らなかったですね。大友先生って断ち切りを描かないんですよ。途中で、『AKIRA』の場合はコミックスが大判だから断ち切りがなくても迫力があるんだ! と気づきました。

小西先生にとっての“マンガ参考書”といえる『AKIRA』。巨匠・大友克洋先生が「心の師」だ!

小西先生にとっての“マンガ参考書”といえる『AKIRA』。巨匠・大友克洋先生が「心の師」だ!

――マンガより小説を先に書き始めたということは、お小づかいはわりと小説のほうに?

小西 そうですね、本とか映画とか。小説を書き始めたのは、始めやすかったからだと思います。学生の頃、ちょうどケータイ小説が流行っていたんです。といってもいわゆるケータイ小説的な内容のものを書いてたわけではありませんが。紙もペンもいらないし、いつでもどこでも書けるので始めるのにハードルがすごく低かったですよね。

――どんなお話を書いていましたか?

小西 大正ロマンだったりSFだったり……ロボットが出てくる作品もあれば、吸血鬼ものも。

――うわっ、かなりバリエーション豊かですね。

小西 読むもの観るものに影響を受けてはせっせと書いてましたね。

――ジャンルはいろいろでも、小西先生が作る物語の軸に傾向ってありますか?

小西 はっきりとあります。私は「2人だけの世界」を描きたがるんですよ。どの話もそれに終始していると思います。その2人だけにしかわからない世界観というか。

――恋愛に限らず?

小西 そうですね。『春の呪い』でいえば、夏美のことを理解できるのは冬吾だけ。冬吾も夏美のなかに、自分との共通項を認めています。たとえばその2人にもし恋愛感情がなくなったとしても、完全に別れることはない。それ以外のものでも強固に結びついている、そういうものを描きたくて……ハッピーエンドやバッドエンドが目的や結論にはなっていないタイプだと思います。

「春」という共通項で結びつきあう夏美と冬吾。夏美は“自分”を知る人間は冬吾しかいないと痛感する……。

「春」という共通項で結びつきあう夏美と冬吾。夏美は“自分”を知る人間は冬吾しかいないと痛感する……。

――小説や映画などで影響を受けた作品はありますか?

小西 影響はいろいろ受けていますが……小説で一番好きなのはオースティンの『自負と偏見[注1]なんですよ。恋愛小説ってあまり読まないんですが、これはボロボロになるほど繰り返し読んでいます。自分の価値観と合致して、自分のなかに根づいたといえるかもしれません。

担当 先生の好きな作品をうかがったなかで、これはすごく腑に落ちました。地に足がついている話で、だけどキャラクターが生き生きしているからおもしろい。雰囲気や感情的な盛り上がりより、その恋愛は現実的に成立するのかがしっかり描かれているんです。

――『春の呪い』でも、夏美と冬吾の生活レベルについてかなりつっこんでますよね。また、これがメロドラマなら冬吾のお母さんが悪役然として邪魔をしてきそうなものですけど……そういう過剰さがないのも軸がぶれない理由だと思います。『春の呪い』の軸は、結局3人の問題ですしね。

小西 そのために冬吾を三男にしたということもあります。親がぱっと手放すのは三男だから。それに、冬吾がひとりっ子なら、もう少し家庭内の事情を察するはず。三男だから少し茫洋としてるのかも(笑)。なんて、現実的すぎて地味ですかね。

――構成にひねりがあるので、実際は充分ドラマティックですよ! 第2巻の途中でふと気づくことがあって……読み終わってから「そういえば1巻のあの場面では冬吾はどういう反応をしてたんだっけ?」と。それで、今度は最初から冬吾中心に注目していくという読み方も楽しんでいます。ミステリ的な側面もありますね。

小西 第1巻が出た時、それはよくいわれました。

――次の作品はどんなものを描くんですか?

小西 現在、準備中です! 

――小説というプロットのストックがかなりあると思いますが……小説って何作くらい書いたんですか?

小西 数えたら96作くらいあって。

――すごい! この先、まるでネタに困らないじゃないですか。

小西 短い作品もありますよ。長いのはめちゃくちゃ長いですが……でも、完結させた作品は少ないんです。今でも小説の読者でいてくれた方が「完結を楽しみにしてます」といってくださるので……がんばってマンガの形で決着をつけていきたいと思っています。

――次回作、どんなものが出てくるか楽しみにしています!


夏美と冬吾、2人がどんな未来を選んだかをお見逃しなく!

夏美と冬吾、2人がどんな未来を選んだかをお見逃しなく!

取材・構成:粟生こずえ


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  • 注1 『自負と偏見』 イギリスの小説家・ジェーン・オースティンの作品。原題は『Pride and Prejudice』(『高慢と偏見』という日本語訳題も有名)。18世紀末~19世紀初頭、イギリスの片田舎で暮らすある五人姉妹の、誤解と偏見から起こる恋のすれ違いを描いた恋愛小説。

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