祝! 『シトラス学園 バニラ』刊行!!
ポップな絵柄のかわいらしいキャラクターたちのファンタジックな作品や、ブラックユーモアを交えたちょっとダークな作品など、幅広い世代から支持を得ている山本ルンルン先生。
「月刊flowers」掲載作品を収録した『ないしょの話 山本ルンルン作品集』(小学館)の『このマンガがすごい!2014』オンナ編ランキング、そして「朝日小学生新聞」連載中のフルカラーミック『はずんで! パパモッコ』(朝日学生新聞社)の当サイト月間ランキング企画、見事にダブルランクインした山本先生。いま、再び注目が集まっている漫画家のひとりといえるだろう。
宝島社から連載作品「シトラス学園」の後半エピソードをまとめた単行本『シトラス学園 バニラ』の発売(シリーズ前半エピソードは発売中の『シトラス学園 キューティ』に収録!)を記念して、山本先生のインタビューを大公開!
後編はコチラ!
山本ルンルン インタビュー後編 好きなものをめちゃくちゃに詰め込んだ、ごった煮感が「ルンルンワールド」!?
恋愛要素はルンルン作品には合わない!?
――2013年には読者層がやや高めの短編を集めた『ないしょの話 山本ルンルン作品集』を刊行、見事『このマンガがすごい!2014』にランクインしました。『ないしょの話』は、冒頭に収録されている表題作と最後の「空色のリリィ」が繋がっているがおもしろいですよね。
山本 それに気づいてもらえるとうれしいですね。「ないしょの話」を描いた時期と「空色のリリィ」を描いた時期は、2年くらい間が空いているんです。長いこと「朝日小学生新聞」[注1]でやっている連載の合間にできたら、って感じで「月刊flowers」(小学館)に掲載していたので。
――では、単行本にまとまってから初めて気づいた読者も多かったのでは?
山本 雑誌で読んでいた人は、ほとんど気づかなかったんじゃないかな。「空色のリリィ」に関しては、「ないしょの話」に出ていた主人公の女の子(ケイト)が、17歳になって、学校の先生と不倫しているっていう設定だったので驚いた方も多かったと思います。今まであまりマンガのなかに性的なものは描いてこなかったので。この短編集は毎回できるだけ、今までやってこなかったことをやってみようって目標で描いていました。ゾンビというホラー要素を入れたものも初めてです。
――恋愛ものを避けてきたのはなぜですか?
山本 避けてきた、というよりは、ほかに描きたいものがあったりして後回しになってきた、という感じかも。照れもあると思いますけど。
――「朝日小学生新聞」を読んでいるくらいの子だと、恋愛にも興味をしめす年齢じゃないですか。山本先生の作品は、『シトラス学園』でも、初めて「朝日小学生新聞」の連載になった『オリオン街』[注2]でも、女の子同士の友情を描いた話が多く感じます。その年頃の女の子の、ちょっと残酷な面も出ていて……それが特殊でおもしろいなって。
山本 そういう風によくとらえてもらえるとうれしいんですが、恋愛に興味ある子にしてみれば、物足りないマンガなのかもな……って思います。基本的に人間と人間のやりとり、そのなかで感じることなどを描きたいので、そのなかに恋愛の要素も入ったりはするんですけどね。前面に出てくることはないかも。
――では、たとえば『ないしょの話』の収録作は、どんなことに関心を持って描いていましたか? 「空色のリリィ」はゾンビものでしたが、ほかにもSFチックな要素があったり、シュールなショートショートだったりと、多彩な作品で構成されていますが。
山本 その当時その当時で、めちゃめちゃなんです(笑)。でも共通しているのは、不思議なことが当たり前に起こる、どこか別の世界ってところですかね。ゾンビものということなら、昔からホラーマンガは好きです。ホラーマンガって、怖くて美しくて、でもどこか笑いと紙一重なところもあったりしますよね。あこがれのジャンルです。
――ホラーマンガだと、どんな作家さんが好きですか?
山本 高橋葉介先生[注3]や、伊藤潤二先生[注4]ですね。「首吊り気球」[注5]を読んだ時の衝撃は忘れられません。あれはホラーというカテゴリーではくくれないですよね。高橋先生や伊藤先生の描く、怖くて色っぽくて不条理でブラックユーモアにあふれた世界が大好きです。
――『ないしょの話』も、ブラックユーモアを含んだお話がたくさんありますよね。ストーリーを考えるうえで、意識している部分はありますか?
山本 そうですね。ブラックユーモアだけでなく、「笑い」って基本的には「人を物笑いにする」っていう要素がどうしても入りますよね。一歩間違えると全然笑えない。そういうことをハタと考え込んでしまうとダメですね。ブラックユーモアにかぎらず、感覚的に思いついたものが一番おもしろい。考えて練ったものは、おもしろくならないことが多いです。
――あまりマンガのネタを練ることはない?
山本 そんなことはないです! ただ、まず最初に感覚的に「あ、こういうのが描きたい!」ってひらめきが必要ということです。そのひらめきも、けっこう集中して追い込まないと出てこないことが多いですが……。そのあと、ひたすら練って練って形にします。
- 注1 朝日学生新聞社(朝日新聞社の子会社)が発行している小学生向けの新聞。『落第忍者乱太郎』など、多くの児童向けマンガを生んだ。
- 注2 2002年から2004年まで不定期連載されていた、山本ルンルンによる初の「朝日小学生新聞」でのフルカラーマンガ。
- 注3 1980年頃、猟奇要素の強い幻想怪奇作品でマンガ界にニューウェーブを巻き起こした漫画家。代表作に『夢幻外伝』『学校怪談』』など。
- 注4 絶大な人気を誇る、モダンホラーマンガの旗手。代表作に『富江』、『うずまき』など。
- 注5 2000年に映画化もされた伊藤潤二のホラーマンガ。人の顔をした気球が本人に襲いかかってくるという奇抜すぎるアイデアと、ギャグすれすれの描写が注目を集めた。