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【『シトラス学園 バニラ』発売記念!】山本ルンルン インタビュー前編 妄想の世界を舞台に日常で拾ったユーモアを描く

2015/04/19


過去の作品を描いていた自分にはもう戻れない

――『シトラス学園 キューティ』は、「このマンガがすごい!WEB」で試し読み掲載されることになりました。『シトラス学園』という作品の前半部分をまとめた復刊単行本なわけですが、そもそもどういった経緯で連載が始まったんですか?

山本 当時、持ち込みをしていた雑誌に関わっていたスタッフさんが、宝島社の「CUTiE Comic」[注9]というマンガ雑誌に参加していたので、その流れですね。

『シトラス学園 キューティ』

『シトラス学園 キューティ』

――その時に、旧版の『シトラス学園』が宝島社から出たんですよね。

山本 はじめての単行本でしたね。そのあと、講談社の「Vanilla」[注10]で続きを描かせてもらえることになって。だから『シトラス学園 キューティ』は、「CUTiE Comic」に載った前半分が収録されてるんです。

――『ないしょの話』もそうですが、『シトラス学園』も西洋風の世界観というか。『マシュマロ通信』と同じく、「シトラス公国」という東ヨーロッパにある架空の国[注11]が舞台とのことですが、そういう架空の世界を作るのは、昔から好きだったんですか?

山本 とにかく西洋に対する憧れはありました。私の時代だと特に、小さい頃に読んでいたマンガ雑誌やアニメに西洋が舞台のものが多かったですしね。自分の知らない国の生活や文化に興味津々でした。東ヨーロッパに設定したのは、日本人の私からしたら、さらに未知のエリアだったので、そのなかにこっそり、誰にも知られていないシトラス公国っていう国があってもいいんじゃないかなって。

日本人にはあまりなじみのない華やかなハロウィンダンスパーティー。でも見た目で男の子を選んだら、ちょっと失敗した経験には、なじみがありませんか?

日本人にはあまりなじみのない華やかなハロウィンダンスパーティー。でも見た目で男の子を選んだら、ちょっと失敗した経験には、なじみがありませんか?

――その非メジャー感な国へのこだわりは、巻末のシトラス公国ガイド[注12]を読むとわかりますね(笑)。単行本には、巻頭に14ページの描き下ろし作品も収録されていますが、いま『シトラス学園』をご覧になると、どんな思いを抱きますか?

山本 この世界、すごい好きなんですよ。いつだって『シトラス学園』を描いていた時に戻りたいと思うんです。でも……漫画家のみなさんの多くが感じられていることだとは思うんですけど、絶対この時には戻れないんですよ。絵も下手だし、話も稚拙だし、今の目で見ると、ひどいものなんですけど、絶対この時にしか描けない勢いと脳天気さがあって。今の私には絶対に描けないですね。

――じゃあ描き下ろしのお話(「学校の階段」)を描いていた時は……。

山本 辛かったです。『シトラス学園』のノリに戻れなくて。

――でも、読んだときはゾクっとなりましたよ! 『シトラス学園』を読んだことない人も楽しめるし、読んだことある人はもっと思い入れが深まるお話だと思います。新装版の描き下ろしとしては、パーフェクトだなって思いました。

山本 ありがとうございます。今から14年前の作品なので、あの頃とはだいぶ違ったテイストのお話になりましたね。

『シトラス学園 キューティ』の巻頭に収録されている描き下ろしのラフ。この時点でキャラクターの表情がしっかり描かれている。

『シトラス学園 キューティ』の巻頭に収録されている描き下ろしのラフ。この時点でキャラクターの表情がしっかり描かれている。

――ちょっとネタバレになっちゃいますが、描き下ろしは、連載当時からちょうど同じくらいの時を経たあとの視点ですよね?

山本 あ、そうですね。そこまで明確には考えていませんでした(笑)。

――復刊ドットコムさんから出た『Bye Byeマシュマロ通信』[注13]にも、描き下ろしがありました。あれもキャラクターたちのその後を描いたエピローグが入るのかな、と思っていたら、いきなり何百年後かの未来が舞台だったじゃないですか。本編と同じ時代のエピソードは描かないって決めていたのかとも思ったんですけど。

山本 それを描いていたときから私自身の時間も経過しているので、違う視点になっちゃうのかもしれませんね。


  • 注9 1998年から2001年にかけて、宝島社から発刊していた少女向けの月刊マンガ雑誌。『シトラス学園』のほか、羽海野チカ『ハチミツとクローバー』なども連載されていた。
  • 注10 2002年から2003年にかけて、講談社が発行していた女性向けの月刊マンガ雑誌。
  • 注11 2012年から「朝日小学生新聞」で不定期連載中の山本ルンルンのフルカラーマンガ。事故の影響でぬいぐるみ・モッコの姿になってしまった発明家の父と、2人の娘が織りなす、不思議なストーリー。
  • 注12 著者である山本ルンルンが実際にシトラス公国を訪ねた手記という形式の文章が掲載されており、シトラス公国の街並みや通貨単位などの細かい設定も明かされている。
  • 注13 2013年10月31日に刊行された、この『Bye Bye マシュマロ通信』によって、『マシュマロ通信』は全話が単行本収録されたことになった。

取材・構成:編集部 構成協力:山田幸彦

次回、漫画家としてのルールや今後の活動について直撃!

単行本情報

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