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【インタビュー】押見修造『血の轍』 「これを描いたら引退してもいい」!? 読者に衝撃をあたえた、あのシーンの秘話も!?

2018/05/03


人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。

今回お話をうかがったのは、押見修造先生!

『このマンガがすごい!2011』オトコ編第10位ランクイン、アニメ化も話題となった『惡の華』完結から約3年――。
常に自身の代表作を更新し続けている、鬼才・押見修造先生の新連載は、"毒親"をテーマとした衝撃作!
まるで映画を見ているような圧倒的な画力で描かれる主人公・静一と母・静子の歪んだ親子関係、そして想像をはるかに超えてくる展開に、すでに押見先生の新たな代表作になりつつある『血の轍』が、 『このマンガがすごい!2018』で第9位にランクイン!
インタビュー第1弾から引き続き、先生の考える"親子関係"や、作中の衝撃展開の制作秘話など、今回も多くを語っていただきました!

2014年のインタビューはコチラ!

前編 “純愛”を考えていたら体操服を盗む話ができあがった。 『惡の華』押見修造【前編】
中編 告白したシーンを描いたら終わりのその先が見えた。『惡の華』押見先生【中編】
後編 14歳が一番エロい! そして次回作は……『惡の華』押見先生【後編】

押見修造

1981年生まれ。群馬出身。

代表作『漂流ネットカフェ』(双葉社)『惡の華』(講談社)。
『惡の華』は2013年TVアニメ化し、累計240万部を突破する大ヒット作となる。

現在は「別冊少年マガジン」(講談社)にて『ハピネス』、「ビックコミックスペリオール」(小学館)にて『血の轍』を連載中。

予定どおりの第1集と膨らみ始めた物語

――『血の轍』は第1集ラストで衝撃の展開を迎えます。単行本単位で構成を考えて、あの展開に?

押見 はい、あらかじめ決めてました。

第1集、衝撃のラストシーン。見開きかつ、この圧倒的な描きこみが、恐ろしさを一層際だてる。

――あそこまで持っていくのに不安はありませんでしたか?

押見 「読者がついてきてくれるかな?」みたいなことは、ないわけではなかったですけど、逆にそこまでの日常描写を丁寧にやらないと意味がないと思っていました。いきなり第1集ラストの“事件”を描いても、それは違うなぁ、と。そういう「衝撃的なことが起きる話」になっちゃいます。日常がちゃんとあって、日常のなかからでてくるものとして描かないと意味がない。それに、ここまで描けば絶対に伝わるはずだ、と思っていました。

――第1集は予定どおり。

押見 そうです。

――では、先の展開まで構想できているのですか?

押見 終わるまでのボリューム感は、なんとなくイメージできています。ただ、描いているうちに、自分が本当に描きたかったことに気づくこともあります。描きながらどんどん変わっていくタイプなので、この先どうなるか。現状でも、当初の予定よりは、だいぶ膨らんでいってますから。

――具体的にどのあたりでしょうか?

押見 第1集は予定どおりだったんですけど、第2集で手紙を破るところ(第15話)は想定していなかったです。

――エピソードとして入れようとは思っていたんですか?

押見 “手紙”をひとつの要素として入れようとは思っていたんですけど、破るかどうかまでは決めていませんでした。

思春期のラブレターを母親に読まれるだけでも、すごいショックなことだと思うのだが……。静子の静一への執着は、それだけでとどまれない。

――全体の構想からすると、今はどのあたりでしょう?

押見 まだ本格的に話が始まる前段階なので、起承転結でいえば「起」か「承」あたりです。大枠の流れは考えていましたけれど、この手紙の件のように、膨らむところはこれからでてくるんじゃないかと思っています。

――膨らむ、というのは、いわゆる「筆が乗る」的な?

押見 描いているうちに思い出がよみがえってくるんです。

――起きた出来事を思いだす、という意味ではないんですよね?

押見 ええ。「あの時の、あの感じ」みたいな感情が噴きだしてくるんです。実際に親に手紙を破られた経験があるわけじゃないですよ?

――はい。

押見 精神的にそれに似たような体験があって、その時の感情がよみがえってきて、どもりが悪化したりするんです。

――それは……描いていて、しんどいですよね?

押見 でも楽しいですよ。ルンルン気分で描いているわけじゃないですけど(笑)。体に変調をきたしたり、どもったりしていますけど、今まで開けていなかったフタが開いていく感覚は、楽しいといえば楽しいです。もしかしたら、今まで描いてきたマンガのなかで、一番楽しいかもしれない。マンガという形で吐きだせているから、なんとかなっているのかもしれませんね。

――読者の反応はいかがですか?

押見 「静子ママが怖い」という感想が多いですね。まぁ、「ママがエロい」という人も多いんですけど、母親に対する性癖をはからずも披露しちゃってる人もいます(笑)。

静子を見ていると、エロと不気味がものすごく近いところにあるように思えてくる。

――静子ママにモデルはいるんですか?

押見 僕の母親はこんなに綺麗ではなくて、自分の母親をそのまま持ってきているわけではないです。ただ、「思い出のなかの母親像」というか、それにいろいろ配合している感じです。男の子どもがいる母親に共通するにおい、というか、そういった部分が描ければいいですね。

――女性読者の反応はいかがですか?

押見 男性読者よりも女性読者のほうが、自分の境遇に引き寄せて読んでくれているみたいですね。「私も静子ママみたいなところがあるかも」と。自分が“毒親”にならないか心配だ、という観点のようです。

――なるほど。自分がそうなるかもしれないという恐怖。

押見 男性読者からしたら、静子ママはモンスターのように怖いようです。けれど、女性読者にとっては「自分もそうかもしれない」という共感の恐怖があるそうです。それが半分。

――もう半分は?

押見 こんな親戚がいたらこうなるよね、と。

ふとした場面でも、静子が輪のなかに入れていない。だれも気づいていないこういった"親戚内での疎外感"に同情する女性読者は多い。

――静子ママに対する同情ですか。

押見 親戚のなかでも孤立しているし、夫婦関係もうまくいっていない……というか、期待する役割を夫が担ってくれていないという感じですよね。

――この親父よそに女いるだろ、って思いながら読んでます。

押見 (笑)。パッと見では父親のほうが老けて見えますけど、設定上はそんなに夫婦の年齢は離れていません。作中で明示していませんけどね。静子ママが若く見えるのは、主人公の目線だから美しく見えています。主人公の静一が、静子ママを「やばい」とか「怖い」と感じた時には、お母さんの顔が、なんというか、みにくく見えるように描きたいな、と思っています。

単行本情報

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