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圧倒的僥倖っ‥‥! 『アカギ』で19年ぶりに雨があがるっ‥‥!!【B級ニュース】

2017/01/10


複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。

今回は、「『アカギ』で19年間降り続いた雨がついにあがる」について。


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『ミキハウスの宮沢賢治絵本 雨ニモマケズ』
宮沢賢治 柚木沙弥郎 三起商行 ¥1,500+税
(2016年10月14日発売)

「週刊『このマンガ』B級ニュース」は今回が2017年の最初の記事となる。
本誌発売とかランキングとかインタビューとか、なかなかハイカロリーなメニューが続いたので、ここらで箸休め的な、七草がゆ的な記事でマンガ脳にインターバルを与えてはどうだろう? そんな時こそ「週刊『このマンガ』B級ニュース」である。

というわけで今回は、年末年始にもっとも世間の耳目を集めたニュースをバッサリと斬る。
この年末年始、もっとも注目されたニュースといえば……そう、もちろん「雨」だ。
福本伸行のヒット作『アカギ』の作中で降っていた雨が、なんと19年ぶりに止んだのであるッ!
コイツぁ春から縁起がいいっ!

12月29日に発売された竹書房「近代麻雀」に掲載された『アカギ』の「EPISODE 293」は、「いつしか雨は上がっていた」のモノローグから始まる。
そもそも本作『アカギ』は、時間経過の遅いマンガとしても有名だ。
作中の舞台は1965(昭和40)年。9月のある日、主人公の赤木しげるは、政界のフィクサー・鷲巣巌と特殊なルールの「鷲巣麻雀」で対局することになった。

以降、この「一夜の対局」が作中で描かれ続けてきたわけだが、福本マンガ特有の心理戦が繰り広げられ、戦局は二転三転。
いつしか「鷲巣麻雀」開始から僕たちの時間では、19年が経過していたのだ! 対局開始時に雨が降っていたが、それがこの年末年始にかけて、ついに止んだわけである。

19年ぶりの雨上がり‥‥、
まさに圧倒的僥倖っ‥‥!

ともあれ、雨を使った演出というのは、ドラマや映画でも頻繁に使われる手法だ。
雨が降っていれば鬱屈した感じが出るし、文字どおり「暗雲立ちこめる」展開を読者に予感させる。反面、雨があがればスッキリと晴れた印象を与えられるので、物語の今後にも「光が差した」ように感じられるだろう。

マンガの世界にも、みんなの記憶に残るような印象的な「雨表現」はあったはずだ。
たとえば 『SLAM DUNK』(井上雄彦)
だれもが知っている国民的な人気作である。
クライマックスの山王戦では、後半開始と同時にドシャ降りになり、主人公たち湘北高校は山王の攻撃をしのぎきれずに大差をつけられてしまう。しかし、残り数分の段階で湘北が反撃に転じると、いつの間にか外の雨は上がっていた。

このように試合展開と天候をマッチさせた表現が、さりげなく使われていたのだ。
やはり人気作ほど、雨演出を効果的に用いているのである。
まぁ、現実問題として12月と1月は1年のなかでも降水量が少ない月だが、今年20周年を迎えるモーニング娘。も『雨の降らない星では愛せないだろう?』と歌っているので、この機会にマンガにおけるさまざまな「雨」の使われ方を見ていこう。


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『恋は雨上がりのように』 第1巻
眉月じゅん 小学館 ¥552+税
(2015年1月9日発売)

今話題の雨マンガといえば、眉月じゅん『恋は雨上がりのように』。
女子高生がアルバイト先のファミレスで45歳バツイチ店長(近藤正己)に恋をするという、現実には起こりえない超常現象を扱ったファンタジー作品である。

……起こりえないよね?
そんなこと、絶対にありえないよね?

そう思いながら読み始めたら最後。世のオジサンたちは心をギュッっとワシヅかみされることは間違いない。
第1集のカバーイラストは、主人公の橘あきらがビニ傘をさしている姿がインパクト絶大。こんな黒髪で目ヂカラの強い美少女が、45歳のオジサンにまっすぐな視線を投げかけてくるのだ。 あきらが傘をさして雨のなかを歩いていく姿には、店長でなくともドキッとすることは必至。彼女はとある理由で陸上競技を断念することになり、“雨が降るのが事前にわかる”体質になったのだが、そのギミックの使い方もうまい。


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『あげくの果てのカノン』 第1巻
米代恭 小学館 ¥552+税
(2016年6月10日発売)

『あげくの果てのカノン』(米代恭)は、異星人が地球を侵略してきた近未来を描くSF。

異星人の襲撃によって壊滅した国会議事堂付近は、つねに雨が降るようになった。異星人は不定期に都内に攻撃を仕掛けてくるので、住民は比較的平和な一部の地上や地下で暮らすようになっている。
作品の設定だけ説明すると、バリバリのSFアクションと思われがちだし、もちろん本作にもそういったバトル要素はある。しかし、本作の主人公は、この世界に暮らす一般女性の高月かのん。パティスリーでアルバイトしながら、高校時代に好きだった先輩を今も思い続けている一途な23歳の女性だ。
彼女が思いを寄せる“先輩”とは、SLC(異星生物対策委員会)に所属して異星人と戦う境宗介。世界を守るヒーローで、しかも優しく、イケメンなので、当然ファンは多い。

主人公かのんは、高校時代に抱いた恋心を今も胸に秘めており、宗介の隠し撮り写真をスクラップしたり、宗介が通う通勤ルートや店をチェックしたり……って、それじゃ「一途」というよりストーカーじゃないか!
そう、この作品はSFでありながらSTK(ストーカー)でもあるのだ。

だから宗介を追って雨の降る場所にも尾行していくので、なんだか「君に会う日は不思議なくらい雨が多くて」ってなシチュエーションが続くのでドキドキしてしまう。
いかんいかん、お茶でも飲んで落ちつこう。

しだいに接近する2人。
既婚の宗介と、かのんはどういう関係を望むのか?
彼女の心理状況と雨模様がマッチしていてグッと来る。


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『集英社文庫 手塚治虫名作集2 雨ふり小僧』
手塚治虫 集英社 ¥562+税
(1995年3月発売)

マンガの神様・手塚治虫には『雨ふり小僧』という短編作品がある。

山奥の過疎の村から町の学校に通う主人公・モウ太は、町の子どもたちにいじめられてばかりいる。気の強いモウ太はやられたらやり返すものの、多勢に無勢。いつもコテンパンにやられてしまう。
そんなモウ太の前に、ある日、妖怪「雨ふり小僧」が現れる。
雨ふり小僧は、頭から古傘をかぶった子どもの姿をしており、その周囲にはつねに雨が降っている。雨ふり小僧はモウ太のクツをほしがり、そのかわりに3つの願いを叶えてやるといい出す。そして雨ふり小僧は水や雨を使った方法で、モウ太の願いを叶えていくのだが……。

ラストシーンで、雨ふり小僧の雨水と、モウ太の涙を重ねあわせるような構図は、胸に迫るものがある。
なお、『雨ふり小僧』は、落語家・五代目立川談志が深く愛した作品であった。談志は手塚を深く敬愛し、古くから親交があったため、集英社文庫版ではあとがきで解説エッセイをつづっている。そこも注目ポイントだ。


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『キン肉マン』 第12巻
ゆでたまご 集英社 ¥400+税
(2013年6月)

そして!
お待たせしました、雨マンガといえば『キン肉マン』(ゆでたまご)でございます!!
ありがとォォォォォォォォォォっ!!!!

「七人の悪魔超人編」でキン肉マンはモンゴルマンとタッグを組み、バッファローマン&スプリングマン組と戦うことになる。
スプリングマンの必殺技「デビル・トムボーイ」を食らったモンゴルマンは身体が引きちぎられそうになるが、自分の身体から流れ出る汗を上空へと昇華させ、雨雲をつくり、そして雨を降らせたのであるッ!

その雨に濡れたスプリングマンは身体が錆び、そしてモンゴルマンは猫じゃらしの原理で「デビル・トムボーイ」から脱出するのだッ!!
まさに救世主(メシア)!
さすが美来斗利偉・拉麺男(ビクトリー・ラーメンマン)!!

なおバネの男は、「週刊プレイボーイ web comic」で現在連載中の『キン肉マン』最新シリーズでもバッファローマンとタッグを組んでおり、コンビ名は「ディアボロス」であることが判明した。こちらのバトルも要チェックだ!

以上、マンガで描かれたさまざまな「雨」。
いかがだっただろうか?
マンガでの雨は、そのあとに止むこともセットで表現されている。

やまない雨は‥‥ないっ‥‥‥!!

というわけで、本年もよろしくお願いします。

ちなみに、今こそ昨年のマンガ界について振り返りたい! という方には、『このマンガがすごい!2017』がオススメです!!
全国の書店にて大好評発売中!!



<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama

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