『青春の門 -筑豊篇-』第1巻
五木寛之(作) いわしげ孝(画) 講談社 ¥514+税
9月5日は石炭の日。1992年、通産省(現・経済産業省)の呼びかけにより、日本鉄鋼連盟、電気事業連合会、日本石炭協会など8団体によって制定された。
なぜ9月5日が選ばれたのか? 理由はクリーンコール(ク=9、コ=5)の語呂合わせ。エネルギー源としてのイメージアップが主たる目的だ。
石炭といえば「はるか昔の化石燃料」といった印象をお持ちの諸兄も多いと思うが、意外なことに、各地の原発停止にともない、経済性に優れた火力発電燃料として大いに見直されているのだ。
気になるのは環境への影響だが、半世紀前と比べて我が国の石炭クリーン利用技術の進化は著しい。
今後もアジアを中心に石炭需要の増大が見こまれており、北海道では採掘事業に新規参入する業者も出てきた。
そんな石炭復活の気運が高まる今こそ、読み返したい作品を紹介しよう。
いわしげ孝が2004年から2006年にかけて「モーニング」で連載した『青春の門 -筑豊篇-』だ。原作はいわずと知れた五木寛之の大河小説。この筑豊編は1969年より「週刊現代」に連載された第一部にあたる。
舞台は昭和10年代の福岡県・筑豊。“のぼり蜘蛛の重”として恐れられた五峯炭鉱の伊吹重蔵が、息子の信介を連れて人気ホステスのタエを強引に見請けするシーンから物語は始まる。
やがて重蔵は炭鉱を守るために38年の短い生涯を閉じ、義母・タエに複雑な気持ちを抱きながら信介は成長。親父と同様のキリクサン(男のなかの男)になるべく、波乱万丈の人生を歩み始める。
石炭が日本のエネルギー源の中心だった時代。筑豊の抗夫たちは過酷な労働に耐え、妻たちは彼らを支え、強い連帯感を生み、日本のなかのどの地域とも違う異国のごとき風土となっていた。
作中のどのページにもボタ山(捨石の集積場)が風景として描かれる。異様な環境ではあるが、人と人との結びつきが濃厚な世界で信介はすくすくと育ち、性に目覚め、進むべき道を模索する。
拳と拳で分かりあうアナクロな図式に眉をひそめる人もいるかもしれないが、匿名の安全地帯から罵詈雑言を書き散らしてストレスを発散する現代人と比べると、どこまでも清々しく、その行動やセリフの一つひとつが圧倒的な熱を帯びている。
石炭とともに戦中をサバイバルする少年の姿を通して、2015年の日本人が失いかけた様々なものが浮き彫りになる。
全7巻、イッキ読み推奨だ。
<文・奈良崎コロスケ>
マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。著書に『ミミスマ―隣の会話に耳をすませば』(宝島社)など。