『まっすぐな道でさみしい』第5巻
いわしげ孝 講談社 514+税
10月11日は俳人・種田山頭火の命日である。五七五の定型や季語にとらわれない自由律俳句を代表する俳人であり、酒と放浪の生涯を送った。
最晩年は愛媛県松山市に庵を構え、句会を催した日の夜中に他界した。
そんな山頭火の一生を描いたのが、いわしげ孝『まっすぐな道でさみしい -種田山頭火外伝-』だ。山頭火の幼少時からの人生を追うことを物語の本流としつつも、現代人が日常生活のなかで山頭火の俳句に触れるシーンが差し挟まるという、一個人の伝記物語としては奇妙な構成を取っており、それにより山頭火の俳句が現代にも通じる普遍的なものであると感ぜられるのだ。
また、場面場面に即した山頭火の俳句が挿入されるのもポイント。コミックスの巻末には、作中挿入句に対するいわしげ孝のコメントも掲載されており、それらをチョイスした理由が読み取れる。
いわしげ孝の作品といえば、『ぼっけもん』、『ジパング少年』、『怪人百面相』、『花マル伝』などで代表されるように、主人公は泥臭く不器用なほど愚直で、青春の蹉跌と葛藤をテーマとすることが多い。いわば"青臭さ"こそが、いわしげ作品の持つ大きな魅力である。
山頭火は表現者としてはまばゆいばかりの輝きを放った一方で、生活者としては“ダメ人間”そのものであった。酒に溺れ、まともな日常生活を送れず、家庭を顧みることもできない。“普通のこと”ができない自分への苦悩を、いわしげ節がまざまざと描き出す。
作者の得意とするテーマと物語の主題がマッチした、希有な作品といえるだろう。
2013年3月6日、いわしげ孝は満58歳で死去。「ビッグコミック」(小学館)で連載中だった『上京花火』は、未完のまま絶筆となってしまった。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
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