『バガボンド』第1巻
井上雄彦 講談社 \562+税
1962年9月7日、この日は『宮本武蔵』『新書太閤記』などで知られる国民的時代小説家・吉川英治が亡くなった日である。
とくに宮本武蔵は、「ひたすら最強で無敵」というイメージばかりだったのが、吉川によって人としての未熟さや、剣士としての成長物語が描かれたことによってイメージが大きく塗り替えられたと言われており、この小説を抜きにして宮本武蔵を語ることは不可能と言っていいほど。それに、とにかく理屈抜きにメチャクチャおもしろい!
マンガとの関わりで言えば、あの『バガボンド』の原作も、吉川英治の小説『宮本武蔵』であるのは有名な話。ただ、小説ではどちらかといえば武蔵のメンタル面の描写が中心だったものを、『バガボンド』ではよりドラマチックに、激しい死闘の数々や、ヒリヒリするような人間関係が描かれている。
そこにある井上雄彦の独自解釈もすばらしいが、そのことをより実感するためにも原作小説と読み比べてみるのも一興だろう。きっと「どちらもすごい!」と唸ることうけあいである。
なお、「字の多い本はちょっと……」という根っからのマンガっ子も安心。吉川英治の小説を忠実な形でマンガ化した『吉川英治版 マンガ宮本武蔵』も存在する。残念ながら2014年9月現在は重版未定となっているようだが、中古での入手は比較的容易なので、そちらもオススメしておきたい。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。