『マイデイア ―正岡子規と秋山真之―』上巻
橋本届 メディアファクトリー ¥552+税
8月19日は819(はいく)の語呂合わせで「俳句の日」とされる。正岡子規研究家の坪内稔典(京都教育大学名誉教授)らが提唱し、1991年に日本記念日協会が公認した。
正岡子規は明治期の俳人で、短歌・俳句の中興の祖である。「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」の句は、誰もが一度は国語の教科書で目にしたことがあるはずだ。正岡子規と、彼と同郷の友人・秋山真之(のちの海軍中将、連合艦隊参謀)、その兄・好古(のちの陸軍大将)の3人を主人公にした司馬遼太郎の歴史小説『坂の上の雲』は昭和の大ベストセラーで、2009~2011年にはNHKで待望のドラマ化が実現した。
橋本届『マイデイア』は、青年期の正岡子規(升)と秋山真之(淳五郎)を主人公とした作品である。松山から上京した2人は、 東大予備門(のち第一高等中学校)に入学し、同郷の友人・清水則遠らと学生生活を送る。故郷の期待を背負って学問に勤しむ淳五郎と、自由奔放に文芸やベースボールに興じる升。対照的な2人が同居し、喧嘩しながらも将来を夢見る。さしずめ「明治モラトリアム」というべきか。謹厳実直と自由人の関係性がとても微笑ましい。
しかし、清水則遠が病死すると、淳五郎は親友と別れ軍人になる道を選び、升は文学の道を志す。維新直後、近代日本の青春期を舞台とした青春群像劇である。本作『マイデイア』は上下巻の2冊でまとめられており、34歳の若さで夭折した正岡子規の生涯を追うには手頃なボリュームだ。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。