『ムシヌユン』第1巻
都留泰作 小学館 \648+税
(2014年7月30日発売)
名古屋大学の理学部生物学科を卒業→京都大学の理学研究科・動物学専攻修士課程を修了→文化人類学者・生態人類学者として富山大学の人文学部准教授に就任と、凡人には理解不能のエリート研究者街道を走ってきた都留泰作。
そんな彼がどのような経緯で漫画家を兼業するに至ったのかは、いずれ取材してみたいところだが、とにもかくにも06年より「アフタヌーン」で連載されたデビュー作の『ナチュン』にはドギモを抜かれた。都留自身が大学院生時代に実施した沖縄でのフィールドワークをもと発想された海洋SFなのだが、壮大なテーマでありながら強烈にこっち側(ボンクラ)の臭いを放つ、得体の知れない作品だった。
その『ナチュン』が10年にひっそりと終了してから3年。待望の新作が「ビッグコミックスペリオール」でスタートした。その名も『ムシヌユン』。今年1月10日の都留のツイートによると、“ムシヌユ”とは“虫の世”の意味。“ン”に意味はないとのことだ。
昆虫博士を夢見る上原秋人は、大学院入試に挑戦するもことごくと失敗。万年浪人生活は5年目に突入し、バイト経験もないまま27歳になってしまった。昆虫研究に没頭しすぎて社会性は皆無。すでに仕送りも止められ、故郷の南国・与那瀬島へ都落ち。その与那瀬島では、球形に輝くタンゴ星団がクッキリ観測できるため、世紀の天体ショーを見ようと、日本全国から観光客が押し寄せていた――。
ここまでが第1話の概要。この作品がSFなのかホラーなのか、はたまた冴えない青年の一発逆転物語なのか、さっぱり方向性が見えないが、第2話以降はその“さっぱり方向性が見えない感”がさらに加速。ヘラヘラと笑う上原のヘタレっぷりと、次々に現れる旧友たちの香ばしさと、自己主張の強そうな南国の動植物が画面を覆い尽くす。
作者独特の肉感的で汗ばんだ女性キャラが、次々と上原の前に登場するも、だれが本当のヒロインなのかさっぱりわからない。トロピカルな露店で働く気の強そうなビキニ姿のウェイトレスが上原の実母だと判明した際は、頭がクラクラした。いったいなんなのよ、このマンガは!